羅刹の幻影は囁く part12

【Exhibition】4＿＿神林SIDE ページ6

椿の花弁を手に取る。思い出すのはあの人の事だ。

この辺で椿を植えてる場所は早々ねぇ。態々花屋で椿頼む奴も少なくねーだろ。
こいつが何の目的で花屋いったか知らねぇけどその椿を買ったって奴は恐らく……。


分かっていたことだが、改めて突きつけられる事実。
冷たい土の下に眠る愛しい人に会いに西門は出かけて行った。その手には、あの人の名にもある綺麗な椿を手にしているんだろうな。


一緒に行こうとは思わなかった。それを理解してか、西門も誘わなかった。
夫婦の時間を邪魔する気もねぇし、何より俺は西門と一緒に行ける気も起きない。
2人だけで話したい事、したい事だって山ほどあっただろうに…そこに俺が割り込むのは、何だか卑怯な気がした。


そうか、もうそんな時期なんだよな。
あの人がいなくなって、その命が文字通りに枯れちまった日が近い。
何度考えても、意識が追い付かねぇのは…未だにあの人がBarでピアノを弾く姿を忘れられないからだろう。



暫く意識を過去に向けていた時、ゲシッと足に鋭い痛みが走った。
思わず痛みから悲鳴を上げると、フハッと目の前で足を蹴った張本人が笑いやがる。


クソガキ、この野郎。
たまらず、蹴られた足を抑えて、


神林「んにすんだよ！」と怒鳴った。


詫び逸れた様子もなくアイツは、『元気無さそうだから蹴った』と返す。
んだよ、それふざけんな。


神林「いや蹴るなよ！」

もっとやり方あるだろ、元気ねぇとか思うなら言葉で慰めるとか……。


『元気戻ったようで何よりですー。湿っぽい顔似合わないですよ』


そう言ったアイツの言葉に度肝が抜かれ、目を見開いちまった。
湿っぽい顔…アイツには今の俺がそう見えていたのか。思わず自分の顔を触っちまう。


動揺する俺がんなにおかしいのか、ふっと笑ったAはそのまま背を向ける。



『それじゃあ、またのご依頼を〜』



気の抜けた声と共に手を振られ、声をかける間もなく店を後にしていった。
残された俺は……思わず前髪をグシャッと乱した。

近くの椅子に座り込み、はぁああと重たくて長ぇ溜息を吐いちまう。
手にある椿を見て、クソと思わず悪態をついちまう。


対して時間を過ごしてねぇ、しかも一回り下のガキに見透かされて、変な慰めまで受けちまった。ここに俺以外がいねぇことが不幸中の幸いだ。



神林「………俺もまだまだだな」

【Exhibition】5→←【Exhibition】3

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す