BTSのメンタルサポーター

8.餃子事件【TH】 ページ37

「スケジュールの都合で、ハンソン役キムテヒョン、お先に失礼します」


「お先に失礼します。お疲れ様です」


ジフニヒョンに続いて挨拶すると、あちこちから"お疲れ様です"と返ってくる。




「お疲れ様、テヒョンア」


「んー」



僕がシートベルトをしたのを確認して、発車するジフニヒョン。



バックミラー越しに、少し心配そうなヒョンと目が合ったけど、気付かないふりで外に目をやる。




…あーあ。今日はジフニヒョンじゃなければ良かったのに。




現場への送迎や、現場での身の回りの事をやってくれるマネージャーは、日によって違う。



メインマネのジフニヒョンは、一緒に過ごす時間が長いからか、僕らのちょっとした変化にもすぐに気付いて、配慮してくれる。


気持ちを言葉で表現するのが苦手な僕にとっては、そんなヒョンの存在がありがくて、ジフニヒョンが担当の時はいつも嬉しかった。



でも今日は、ヒョンのその細やかさが逆につらい。




「ヒョン、餃子頼んどいてくれました？」


「ん？ああ、帰る頃には届いてると思う」


「ありがとうございます〜」



手元の台本に目を落とすと、自然とため息が出た。



…次はもっと頑張らなきゃ。






今日の撮影は、全然駄目だった。



こんなにNGを出したのは、初めての撮影以来だ。

監督も、共演する役者さんも優しい人ばっかで、責められるような事はなかったけど。


それでもやっぱり、自分のセリフでカットがかかった時は落ち込む。




午前中に始まった撮影は、正午過ぎに休憩に入ったけど、ケータリングに手をつける気にもならなかった。



…なんで今日はこんな上手くいかないんだろ。


同じセリフで何回も噛んだり、上手く感情を出せなかったり。他の役者さんにも少し驚かれた。


セリフが飛んだ時には、さすがに自分でもびっくりしたし、相当落ち込んだ。
記憶力にはそこそこ自信がある方だったから。
それに、忙しいとはいえ、寝る前とか現場に向かう間とかに、いつもちゃんと練習してたし。


集中出来てなかったのかな。



リテイクに何回も付き合わせてしまった申し訳なさで、何となく皆から少し離れた場所で台本の読み込みをしていると、ジフニヒョンが近付いてきた。



「テヒョンア、食べないのか？」


「今お腹空いてないです」


「…そっか。じゃあ何か頼んどくか？ 後でお腹空くだろ」


「んー…じゃあ餃子で」


「ん、分かった」



ヒョンが居なくなると、また台本に目を戻す。

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