とある街角のパン屋さんで。 (ページ6)

今日:1 hit、昨日:4 hit、合計:853 hit

6話ページ6

『大丈夫…ですか…？？』

涙を流す私を見て驚いている彼。
そんな彼を見て、驚きつつも涙を流す私。

もしこの場に人がいたら
私たちを見て何と思うのだろう。

左腕の擦り傷を見つけるなり、ハッとした表情になった彼は腕を掴んだ。

『すみません！僕が声を出したあまりに…
お怪我をさせてしまって…！』

『い、いえ…。このくらい何てことないので…。』

大きめの絆創膏を貼れば隠せるくらいの傷は
そんなに心配するほどではないのに。

『びょ、病院に行きましょう！！学校の近くに夜間
対応の診療所があるので！！』

『大丈夫ですよ…。あ、あの…私、帰ります。』

涙をパーカーの袖で拭っていると、何だか申し訳ない気持ちになってきた。
私を先生を知っているけれど、先生は私の名前を知らないし、6年前にたった30分間話しただけ。顔も覚えているはずもない。

突然の再会に嬉しさが込み上げてきたけれど
先生から見れば、自分で転んで泣いている人にしか映らない。

その場から立ち上がり、倒れたままの自転車を起こすと先生にお礼を言った。

自転車に跨がろうとすると
先生は隣に来た。

『僕、この学校の2年2組を担当している
相葉雅紀といいます。もし、何かあれば直ぐに連
絡をお願いします。』

そういうと彼は、学校の電話番号が書いてあるメモ紙をくれた。
男性的だけど少し丸みのある字で、先生の人柄そのものを表しているようだ。
ポケットにそれをしまうと同時に

『6年2組、二宮です。』

無意識のうちに名前を口に出していた。
先生は一瞬不思議そうな顔をしたけれど、そのまま西門前まで見送ってくれた。

お湯に浸かりながら
ついさっきまでの奇跡のような出来事を振り返る。
傷が少ししみるけれど、これもラッキーの一つになるかもしれない。

メモ紙を枕元に置いて
今日のことを忘れないようにと眠りについた。