とある街角のパン屋さんで。 (ページ5)

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5話ページ5

それはもう

6年前の春。
おでこのニキビが増えていくのが嫌で毎朝鏡に映る自分に文句を言っていたころ。

図書委員だった私は、友達も少なく昼休みは図書室にこもり読者に没頭していた。

ある日、いつものように本を読んでいると
見慣れない男性がいた。

背が高くて、少し髪が茶色で。
よく校庭で子どもたちと遊びまわっている。
確かこの人は…。

『2年2組担任、相葉です。これ、2冊借ります！』

そう、相葉雅紀先生。
先週隣町の学校から赴任してきた先生だった。

先生の手には、絵本があった。

『先生、絵本なんか読むんですか？？』

すると先生は、恥ずかしそうに

『今、クラスで流行ってるみたいなんだけど
読んだことないから、せめて見ておこうと思って』

そう言うと、貸出カウンターに設置してある椅子に座り読み始めた。
受付係の私は隣でそれを眺めていた。

偶然にも、その日図書室に来る人はおらず
笑顔で話す先生と、緊張しながらもいろんな話をした。

先生と話したのはそれっきりで。
でも、真っ直ぐな瞳に優しい笑顔。12歳の子どもの私にはそれで十分すぎた。

初めて異性に対して、ドキドキとした感情を持った。初恋。

先生と話すのはあれが最後だと思っていたから
目の前に彼がいることが

驚きでもあり、どこか懐かしい感覚にもなった。