240メートルの誤算3【佐野玲於】

ひとり ページ48

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「玲於ちゃーん、タクシー来たから乗り〜」
「…うん…」
「龍友くん、玲於くん方面どこ？」

ヤケ酒の結果
見事に潰れてしまった。
でも、眠すぎるのと頭痛が酷いだけで、意識飛んでるわけではない。

なんとか身体動かして、ぼおっとする頭のまま、龍友くんに連れられてタクシーに乗り込んだ。適当に住所伝える。
明日遅刻したあかんよって念を押されながら、店を離れた。

…はあ、やっと帰れる
…帰れるって？
ひとりじゃんか、俺。
待ってよ、無理無理、ほんとに無理だって。

もう会いに行っていいかな
いいよね？
昨日はごめん全部ウソ！って無理やり丸め込んで、うやむやな関係でも、両思いじゃなくても、一緒にいられなくなるよりずっといいだろ

もうこのまま行こう
このタクシーで


「…すみません行き先変更してもらっても」

言いながら顔を上げたとき
え？って、呟く声が隣から聞こえた。
驚いて見ると、隣に座ってたの、さくらちゃん。
混乱して声が出なくなる。

「どうされました？行き先変更されますか？」
「……あ、いや…」
「よろしいですか？」
「…はい。」

…なんでいるんだよ
頭が痛くて、よく理解できない。
全然気付かなかった。

「…どうしたの？」
「……いや、なんでいんの…方向一緒？」
「うん。酔い覚めた？」
「…まあ。」
「よかった。」
「……。」
「…元カノのとこ行こうとしてたの？」

……元カノ、って

「……いや、友だちの家泊まろうかと思っただけ。」
「…そっか。」
「…うん。」
「今日わたしばっかり喋っちゃってごめんね、ほんとお喋りで。」
「……。」
「楽しかったなー。また飲み行きたいね。」

それから、たまに話しかけてくるさくらちゃんの声を聞こえてないふりしてスルーしながら
この香水の匂いを、できるだけ吸い込まないように必死だった。

嫌いなんだよ、これ。


「……玲於くん、寝ちゃった？」
「……。」
「…おーい。」
「……。」
「……この前会ったの、覚えてる？」


マンションの裏に到着したタクシー
財布から一万円札取り出して、さくらちゃんに渡した。
何も言わずに降りる。
もう顔も見たくなかった。


俺はAみたいに単純じゃない。
簡単に心を動かされたりしない。
今はAのことだけ考えてたい。
だから勝手に、踏み込んでくるなよ。


自分からも、あの香水の匂いがした。
頭が痛くて倒れそうだった。


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きなこ→←さくらちゃん

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