未完成ラバー【今市隆二】

心が広い ページ9

Aside






隆二「えーすげー、笑 なんで分かんの？笑」


A「だって今市さん、顔ひきつってましたもん。」


隆二「あはは、よく見てんね！笑」






そんな会話が繰り広げられるのは


例の非常階段

今市さんの特等席




たまに仕事に飽きて逃げてくると 鉢合わせたりしちゃって


座り込んでミルクティー飲んでたら、ミルクちゃんが行ってんの見えたから来た、なんて

そんな饒舌に付き合わされたりして。





ここ1週間、夢なのかなあと思いながら こんな生活を送ってる。



家に帰ったら寂しい気分になるけど

ここで今市さんとお喋りするのが、唯一の楽しみ。




…いや、その

変な意味じゃないけどさ。






隆二「あーそろそろ仕事戻ろっかなー。」


A「今市さんがいなくなったら、みんなすぐ気付いちゃいますよね。」


隆二「…まあミルクちゃんよりは気付かれるかな。」


A「あ、ひど。」


隆二「うそうそ。笑」





じゃあ戻るね、って

ドアを開けて出て行ってしまった。




その後ろ姿を見送り

ひとりになって、ため息をつく。





今市さんは よく女の子たちの愚痴を言ってるけど

全部、なんていうか…冗談まじりで


だからたぶん 根っからの優しい人なんだと思う。



あんなにストーカーばりに引っ付かれてるのに

悪口言わないもん。





…凄いなあ

心が広い。





それに比べてわたしは全然ダメ。


だいちゃんのことで たまに嫌になっちゃったりするもん

お仕事頑張ってるだけなのに。




…でもなあ…





なんて、また答えの出ないようなことを考えていたら






A「…あれ、」






ほっぺたに…雨粒？




ん？って空を見上げたら いつの間にか雲が厚くなってて

ぽつぽつ雨が降り出す。




慌ててフロアに入り

少し濡れたスーツをハンカチで拭いた。



．

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