未完成ラバー【今市隆二】

大好き ページ45

Aside






A「隆二、さん…」


隆二「…Aちゃん、今、幸せ？」






静かな部屋の中、耳元で聞こえる隆二さんの声



…今、わたしは…





A「…幸せ…です。」


隆二「…ほんとに？」


A「…はい、」


隆二「……俺と一緒にいた方が、幸せじゃない？」






…隆二さんと一緒にいた方が


家より、会社の方が



…そっちの方が、幸せに決まってる。





夜中まで帰って来てくれない


頑張って作ったご飯も、褒めてくれない


好きって言葉も ずっと言ってくれない





そんな彼氏より


ここにいた方が何倍も幸せを感じられる。





それは分かってるけど


…でも、この人はダメだよ




このままずるずる隆二さんの優しさに甘えて

疲れさせたくない、こんなにいい人なのに。





…だから






A「……もう、何言ってるんですか。」






そう言って笑いながら

隆二さんの身体を離した。



呆然とわたしを見つめるその瞳が悲しくて

思わず俯く。






A「…幸せです、だいちゃんを家で待ってる時間が、……待ってる時間が、好きです。」


隆二「……Aちゃん、俺、人の嘘ってすぐ分かんだよ。」


A「…嘘…？」


隆二「……我慢しなくていいよ。」






優しくそう言いながら


わたしの手を取って、ぎゅっと握ってくれる。



ドキドキが伝わっちゃいそうで、思わず背筋が伸びた。








隆二「…俺は、Aちゃんの笑顔が大好き。」







しっかり目を見ながら、そう言ってくれた隆二さん。


その言葉に 思わず胸が熱くなる。




笑顔が大好き、って

…そんなの、初めて言われた






隆二「…だから、俺の前では無理しなくていい。嫌なものは嫌って、好きなものは好きって、言っていいんだよ。」





ぽろぽろ溢れる涙が、頬を伝って下へ落ちていく。


泣いたのなんて久しぶりで

それも、隆二さんの前で泣いちゃうなんて恥ずかしくて



両手で自分の顔を覆う。





…ああわたし、こんなに我慢してたんだ。







隆二「…おいで、Aちゃん。」







この人に名前を呼ばれるのが好き


この人の笑いじわが好き


この人と一緒に過ごす時間が好き





それが結局どんな感情なのか

この時のわたしは、その答えから逃げていた。






こうして隆二さんに抱きしめられるのも

ただ甘えているだけなんだ




…なんて、そんな子どもじみた考えで。



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