未完成ラバー【今市隆二】

居場所 ページ38

Aside






「ただいま。」


A「おかえりなさい、」





その日の夜、19時半


久しぶりに、だいちゃんが早く帰ってきてくれた。




一緒にご飯食べられるって


すごくすごく嬉しい

はずなのに、どこか笑顔がひきつる。



…あれ、なんでだろ。






「メシある？」


A「あっ、うん。昨日のカレーでよければ。」


「あー、それでいいや。」





それでいいや、って…


コートと鞄を受け取って、だいちゃんの後ろからリビングに向かう。




カレーを温め直している間にサラダを作って、お茶とスプーンと一緒にテーブルに運んだ。






A「だいちゃん、お腹減ってる？」


「んー…普通かな。」


A「はあい。」





冷凍してたご飯を選んで レンジに入れる。


熱々になったそれを取り出して、ルーをかけた。





A「できたよ、食べようだいちゃん。」


「うん。」


A「いただきます。」


「いただきまーす。」





カレーひとくち食べた後

美味しいって言ってくれるかなあって思ったけど






「あはは！やべーウケる！」





…カレーよりテレビ、かあ。





A「だいちゃん、久しぶりだね。ふたりで晩ごはん食べるの。」


「ん？そうだっけ？」


A「そうだよ、」


「…仕事忙しいからさ、ごめんな、A。」


A「…うん、わかってるよ。」





わかってる

大丈夫


…我慢できるよ





「…あれ、俺のスープジャー持ってったの？」


A「え？」


「あの水色の…俺のじゃなかったっけ？」





そう言ってだいちゃんが指差したの

洗って水切りかごに置いていた、隆二さんが食べ終わって受け取った、例のジャー。



…どうしよ

正直に言っちゃっていいのかな…





A「…うん、あの、…お世話になってる人にね、あげたの。」


「…お世話になってる人？」


A「うん、」


「…ふうん。」


A「…カレー、おいしい？」


「うん、美味い。」


A「…よかった。」






なんとか話は逸らせたけど



だいちゃん、美味いって言いながら

意識は半分テレビに向いてる。





そんな横顔を見ていたら

お昼に見た隆二さんを思い出した。





…たくさん褒めてくれたな


美味しい美味しいって

何回も言ってくれて


本当に幸せそうに食べてくれた。






A「…ねえ、だいちゃ」


「あはは！この芸人ウケるわあ。」







…わたしの居場所は、ここであってるのかな。



．

この感情→←なんでもない？

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す