未完成ラバー【今市隆二】

寂しい空 ページ17

隆二side





ミルクちゃんのことを考えながら

マスターが出してくれるカクテルを味わっていた。




なんでこんな 頭から離れないんだろう。


…好きとかじゃ ないはずなんだけど。





そんなことを思っていた時




カランカラン とドアが開いて

ひとりの男性が入ってくる。



マスターの反応を見る限り、常連さんではないみたいだ。






「ジンフィズお願いします。」






静かなトーンでそう言って

コートを脱ぐ。




その横顔



…どっかで見たことある気が…








______カランカラン






その時

また扉が開いて






「大輔、待った？」






そう言いながら彼に駆け寄る 綺麗な女性




その名前を聞いた瞬間、頭に浮かぶ

今朝ミルクちゃんに見せてもらったあの写真






…大輔って だいちゃん、だよね？







見てはいけないものを見てしまった気がして

思わず顔を伏せた。







「俺も今着いたとこだった。惜しかったね。」


「そうなんだ。もうちょっと早歩きすればよかったな。」






当たり前に繰り広げられるその会話が

棘みたいに鋭く、俺の耳に入ってくる。



…聞きたくない。





「マスター、カシスオレンジを彼女に。」


「かしこまりました。」


「…ねえ、いいの？こんな時間から…」


「…いいよ、仕事してるって思ってるから。」


「ふふ、健気な彼女だね。」


「…健気より、大胆な子のほうが俺は好きかな。」






……ああ、もう

無理だ。






隆二「…マスター、今日はもう帰ります。」


「え？まだ一杯しか…」


隆二「だいぶ酔いが回っちゃって。」






チェックを済ませて コートを片手に店を出た。



冷たい風が今は心地いいくらいで

その風に当たりながら、思わず立ち止まる。







……ミルクちゃんは



…いや

Aちゃんは今頃、ひとりでだいちゃんの帰りを待ってる。



まだかなあ、なんて呟きながら

独りぼっちで。




仕事を頑張ってる彼の負担になりたくなくて

さみしいの4文字も言えずに、ただずっと、その帰りを待ってるんだ。







…でもAちゃん


だいちゃんが今してるのは

仕事じゃなくて、浮気だったんだよ。







…なんて、そんなの言えるわけない。






ああ、どうしたらいい？



どうしたら、

あの子を傷つけずに…









見上げた夜空には 星なんてなくて




この寂しい空をAちゃんが見ていませんようにって

そう願うことしかできなかった。



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