ユアマイドール【佐野玲於】

それだけなのに ページ28

Aside






よしよし、大丈夫大丈夫



わたしは、好きになってもらいたくて、玲於くんに恋してるわけじゃない。


初心に戻るだけ。



初めて好きだって気付いたとき

この人にたくさん笑って欲しいって思ってたでしょ



今だって同じ

何も変わらないよ




だから、このドアの向こうにいる玲於くんが


一回もわたしの名前を呼ばなくったって

一度も目を合わせてくれなくったって


全然平気。





そう自分に言い聞かせながら、みんながいる個室へ入った。






A「…失礼します。」






真っ先に目に入って来たの

涼太くんの隣でお上品に微笑む、そんなチカさん





龍友「お、来た来た。」


裕太「座り〜」





ふたりの声に席を探すけど

空いてたの、玲於くんの隣だけ。



…ああもう、なんでよりによって 玲於くん？





右隣には玲於くんだし

前は涼太くん、斜め右にはチカさん



この席、わたし的には一番避けたかったかも。





メンディーくんの隣がよかった

メンディーくんと裕太くんに挟まれたかった


そんなことを考えながら、苦いビールをちょっとずつ飲んでた。






チカ「Aちゃんのリップの色、すごく綺麗。」





突然話を振られて、慌てて顔を上げる。


ぱちっと目が合ったチカさん

…ほんとに美人。





A「えと、秋色で買ったんです。もう冬だから、ちょっと季節外れなんですけど…」


チカ「ううん、すごく似合ってる。深い色ってなかなか使いこなせないけど、黒い服だと逆に映えるんだ。」


A「はい、服が暗い時にビビッド使っちゃったら、いかにも…って感じがして嫌で、」


チカ「わかる！冬って特に重たい感じするよね？」


A「それです、ほんとその通り。」






…どうしよ

すっごく話が合う。


もっといっぱい話したいかも。




好きな人の好きな人なのに

こんなんじゃわたしまで心奪われちゃいそうだ。






隼「今の会話、俺らには理解できないっすね。笑」


龍友「女子やな〜」


涼太「A友達いないからよかったね。」






…あ、また涼太くんがサラッと嫌なこと言った。


恥ずかしいから言わないで欲しいのに、ほんと毒舌



なんて思ってたら







玲於「…出た、毒舌。」







玲於くんが 隣でそんなこと呟いて。





…同じこと考えてた





それだけ、ほんとにそれだけなのに



なんだか

苦しいくらい嬉しい







…ああわたし おかしいのかな。



．

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