三色スミレ 特別編

左手 ページ31

Aside





金曜日


臣くんの家にお泊まりして

あとは明日の出発を待つだけ。




そんな夜







広臣「うわ、やっぱ半袖さむ。」





臣くんがお風呂から上がって

わたしは先に入ってたし、仕事終わってからお泊まりに来たせいでもう22時。





A「なんで半袖？長袖は？」


広臣「キャリー入れちゃったわ。」


A「…風邪ひいちゃうよ。」





会社に行く時、寒すぎて巻いてたチェックのストール

臣くんの肩にかけてあげた。





A「あ、可愛い。」


広臣「てか超あったけえ、これ。笑」


A「でしょ？」


広臣「うん、俺も向こうで買おっかなー。」





…向こうで、かあ。



明日には臣くんはいなくなってしまうわけで

同時に、佐野くんも引っ越してしまうわけで



…ひとりぼっち。






A「…わたし、ママに明日のこと何も話してないけど…」


広臣「…ん、俺が連絡とってるからいいよ。何もしないで。」


A「ほんと？」


広臣「うん。…見送りがてら空港で話そうってことになったからさ。」


A「…わかった。」





許してくれるといいな。

ここまで来たんだから…






広臣「…A、寒くない？」


A「…ちょっと寒いかも。」


広臣「……手、かして。」






右手を臣くんに差し出すと

そっちじゃない、って言われて





A「…え？」


広臣「…左手。」





言われた通り、ゆっくりと左手を差し出す。


優しく微笑んだ臣くんは






広臣「……気が早いけど。」






そう言いながら、ソファーの横の小棚

その引き出しを開けて



取り出したのは、白のリングケース






A「……臣くん…」


広臣「…今晩だけでいいから、つけといて。」






その箱から器用に抜き取って

わたしの薬指にはめてくれる。




臣くんがわたしのためだけに選んでくれた

世界で一番綺麗な、婚約指輪。







広臣「…ぴったり。」






愛おしそうな臣くんの視線に、思わず涙が溢れた。


…わたし、こんなに愛してもらってる。






A「…ありがとう…嬉しい。」


広臣「…すげー綺麗。」






言いながら、優しいキスをくれた。







広臣「…ここまでついて来てくれて、ありがとう。」







そう呟く臣くんに


薬指で光る指輪に




よそ見はできない、と そう実感させられた。





もう迷えない

もう戻れない





これが、わたしの道なんだ。


．

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