三色スミレ 特別編

どうして ページ16

Aside





A「あの、寝てたの。昨日ちょっと疲れてて…」





臣くんが出張に行ってる夜に佐野くんといたなんて

それで電話出なかったなんて


…絶対ばれちゃダメ。






玲於「……電話、鳴ってた。」


A「…佐野くん、違う。」


玲於「それで俺、出なくていいって…」


A「佐野くん、」






全部思い出したって

そんな表情で、わたしを見つめてくる。



その視線が苦しそうで

悲しくて


思わず逸らしてしまった。






広臣「……なに？」


玲於「…すみません、今の、俺の夢の話です。こいつ昨日今市さんと飲んでたらしいっすよ。」





…また佐野くんに嘘をつかせてしまった。




どうしよう

どうしよう


思い出したよね？



全部


わたしの心臓の音も、

返事ができなかった苦しさも、




全部…






広臣「…そ？」


玲於「あの…暗いんで、気をつけて行ってください。」


広臣「…ありがとう。…A、明日会社でね。」






明日、会社で






A「…うん。また明日…」






たくさんの人に ごめんなさいって言わなきゃいけない。


悪いことしてる

臣くんにも、佐野くんにも。




わたし、どうしてここにきて揺れてるの？


臣くんが帰ってきて嬉しいでしょ？


佐野くんの気持ちとか、苦しさとか

臣くんの笑顔見たら、全部消えちゃうって



だから、曖昧なまま誤魔化してきたのに。






…なんで臣くんを見ても 消えてくれないの？





角を曲がって行った臣くんの車

じっと見つめながら、なんでか泣きそうになるのを堪えてた。





玲於「…昨日のこと、全部思い出した。」


A「…うん。」


玲於「……ごめん、ほんと…もうお前に触んのやめようって思ったのに。」


A「…うん。」


玲於「けどお前だって…」





…佐野くんが何言いたいか、分かるよ。



わたしだってドキドキしてた

意識してた


本気で拒まなかったし、悪いことしてるって自覚あったし






玲於「…なんかもう、分かんねえ。」





佐野くんはずっと友だちで

大切な人で


ある日突然告白されて

たくさん愛情を貰って




それなのに

わたしは今、そんな優しい人を苦しめてしまっている。






…好きだよ、大切だよ

絶対失いたくない



けど、これが恋愛感情なのか分かんないし


何よりわたしには、臣くんがいて…








ため息ついて部屋に入ってく佐野くん

その横顔を、ただ見つめることしかできなかった。



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