魅惑のマーマレード【登坂広臣】

拭えない苦しさ ページ28

広臣side








広臣「……ガンちゃんにあって、…俺にないものって…なに？」



A「……え？」








エレベーターは既に5階に着いていて、


降りようとするAの手首を掴みながら、そう問いかけた。







．








………何言ってんだよ、俺。









泣きそうな顔しながら、目線を落としたA。









……困らせたくない。



面倒くさい男になりたくない。








今ならまだ、間に合う。




ごめん、なんでもない って言えば









．









．









そう思ったとき



Aはそっと近づいてきて

小さな体で、俺のことを抱きしめた。









何が起きてんのかよく理解できなくて



ただ、Aの温もりを感じてるだけ。









広臣「……A…」









静まり返ったエレベーターの中





力なくその名前を呼ぶと

返ってきたのは






．







ごめんね









の、4文字。








息が止まるかと思うくらいに、心臓が大きく跳ねた。









……ごめんね、って…









A「わたし…なに言われても、ね。……やっぱり、岩田くんがすきだよ…」









俺の胸に顔を埋めながら、小さな声でそう呟いて。









A「……臣さんのこと好きになったら…絶対幸せになれることも分かってるよ。…でも、そんなことできない、」









……ガンちゃんのこと、諦めたくない？



それとも

俺で妥協するなんて、失礼だとでも思ってる？









広臣「……それでもいいのに、」









．








ぎゅっと、Aの体を抱きしめる。




好きすぎて


なんでこんなに好きなのかも、自分じゃ分からなくなるくらいに









ただ、Aのことが好きだって


それだけの感情で 俺は生きてられる。









A「…おみさ、ん…苦しい…」




広臣「……あーもう…そんなに王子様が好きかよ。」




A「……うん…」









ガンちゃんになら何されてもいいなんて、


バカみたいだと思ってた。








けど今なら分かる。









俺だって、


こいつが相手なら、どんな仕打ちを受けてもいいって思う。









妥協だって構わないし


寂しさを埋めるための道具に使われてもいい









人を好きになるって、こんなに苦しいことだった？








．









自分が、自分じゃいられなくなる。






．

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