覚えてて 主役は君(一成) ページ15
この世界が漫画の世界なら、間違いなく彼は主人公だろう。
爽やかなルックスに、誰からも愛される性格。
勉強は少し苦手だけど、部活には熱心で 特技のダンスにも努力を怠らない。
人気者の彼に、弱点はあるのだろうか。
｢豆原くんって、ザ・キラキラ主人公！って感じだよねぇ｣
『あー、ちょっと分かるかも』
放課後、友人のシオが机にだらんと腕を預けたまま｢私もあんな彼氏が欲しいわ｣と項垂れる。
シオだって優しいし、みんなから可愛がられてるんだから その辺は自覚してほしい。
彼が主人公なら、私はきっとモブB。いや、モブDくらいかもしれない。役名をもらえない、ただの風景。
"自分の人生の主役は自分自身"だとよく言うけれど、特にこれといった取り柄もない私に"主役"という肩書きは随分と烏滸がましいように思える。
1年生の頃、彼と同じクラスになった。偶然、隣の席だった。
＿＿ ｢あの、教科書忘れたから見せてほしい、です。｣
両手を顔の前で合わせ申し訳なさそうに話しかけてきたその時が、初めて私達の関係が交わり始めた瞬間。
今でも鮮明に思い出す。だってあの時、吹くはずのない風のような何かが私の心を揺らしたから。
｢あ、A。噂をすれば｣
突然身体を上げたシオ。彼女の視線の先を追う。
｢A！ごめん、ミーティング長引いて遅れた！｣
『あ、一成』
｢今日も彼氏くんのお迎えなんていいねえ｣
ドアに手をかけて肩で息をする一成。きっと廊下を猛ダッシュして来てくれたんだろうな。そんなに急がなくても待ってるのに。
｢噂をすればって、何話してたの？｣
｢何でもないよ〜、ね、A｣
『うん、何でもない』
｢えー気になるんだけど｣
ほっぺを膨らませて拗ねる一成。可愛いなあ、お餅みたい。
『じゃあシオ、また明日ね』
｢バイバイ〜豆原くんと仲良く帰るんだよ〜｣
シオに見送られながら教室を出る。外靴に履き替えて昇降口を出ると、さりげなく繋がれる手。
｢ねえ、シオちゃんと何話してたの？｣
『気になる？』
｢そりゃあね｣
『一成は主人公みたいにキラキラしてるねって話』
｢ふふ、何それ。じゃあAはヒロインだね｣
楽しそうに笑う一成の顔に西日が射す。
あなたにとってのヒロインは、この先もずっと私だったらいいな。
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作者名：ヨカ | 作成日時：2021年8月22日 22時
