生きる恋を、大きくなる愛を【短編集】 (ページ12)

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ローテンションアタック(翔也) ページ12

『木全くん、好きです！』
｢ごめんなさい｣
｢これで何回目なん、ほんまようやるわ｣

ほら翔也から離れろ、と汐恩に無理やり首根っこを掴まれる。

人通りの多い廊下だと言うのに、離せ離せと暴れる私に苦笑いを浮かべる木全くん。うん、今日も可愛い！ワールドワイドキュートボーイ！

遡ること入試の日、家に筆箱を忘れ絶体絶命だった私の隣の席だったのが木全くん。横からスっとシャープペンと消しゴムを貸してくれた。彼の目を隠すような前髪、そんな前髪の隙間から見えた艶やかな目に吸い込まれた。

多分、一目惚れだったんだと思う。

彼のおかげで難を免れ見事合格した私。
新学期になってみれば、同じクラスに彼の姿があったのだ。

ダンス部に所属したらしい木全くんは、私の幼馴染鶴房汐恩と意気投合。私にとっては都合が良い。

自然と3人で過ごすことが多くなった私達なのだが、毎日アタックしても｢ごめんなさい｣の一点張りな木全くん。多分本気だと思われていない。

トイレ行ってくる、と言ってその場を離れた2人の背中を見送る。どんだけ仲良いのさ。

大人しく教室に戻ろうとした私。しかし、歩いている途中でポンっと肩を叩かれた。

反射的に後ろを振り向く。

｢あ、突然ごめん。翔也と汐恩の友達やんな？前一緒に居るとこ見かけたからそうやと思って…｣
『はい、そうですけど』

上履きの色的に一つ上の先輩だろうか。
キリッとした顔つきに、きゅるきゅるの目。周りの女子生徒達がザワザワしている気がする。

｢僕、ダンス部の川西って言うんやけど、翔也と汐恩に用事があって教室行ったら居らんかったからこれ君から渡しといてほしくて｣

川西という苗字に聞き覚えがあった。

クラスの女子が、｢ダンス部の川西先輩がかっこいい！｣と騒いでいたことを思い出した。多分その噂の本人が、この人。

木全くんと汐恩の口から名前を何度か聞いたことがある。

ダンス部の来月のスケジュールだという。受け取ると、先輩は｢ありがとう｣と笑った。

うん、今キュンときた。シンプルにかっこいい。

その時、後ろから廊下を急ぐ足音が聞こえた。

｢何してんの｣
『あ、木全くん』

聞き慣れた声、振り向けばそこには焦ったような表情を浮かべる木全くんがいた。