ふたりだけの夢の中(汐恩) ページ24
目の前にいる汐恩が笑っている。
こっちにおいでと差し出すその手をとると、ぎゅっと握りしめてくれる。自然と絡まる指と、ぴったりとくっつく身体。
私の頭上から聞こえる楽しそうな声に、私もまた楽しそうに笑う。
けれどなぜか、だんだんふわふわとしてくる。
汐恩の声は遠くなるし、握っている手が段々と透けてくるの。
『どうしたの？汐恩、行かないで。』
｢俺はいつでもAのそばに居るで｣
＿＿ ｢寝ても覚めても俺らは一緒やろ？｣
・
目が覚めた。ソファの上で、まだ開き切らない目を擦りながら身体を起こす。
ああ、昼食を食べたあとお腹がいっぱいで眠くなっちゃって、そのまま寝てしまったのか。
｢お、ようやく起きたん？おはよう｣
『おはよう、なのかな。今何時？』
｢15時過ぎたばっかやで、随分と気持ちよさそうに寝とったやん｣
『うん、汐恩の夢みてた』
まだふわふわする頭を精一杯働かせてよたよたとふらつきながら、冷蔵庫を開ける汐恩の元に歩いていく。
広い背中に、ぎゅうっと抱きついて頭をぐりぐりと押し付けた。
温かくて逞しい背中に耳を当てる。ドクンドクンと心臓の音が微かに聞こえてくる。
｢どーしたん、寝ぼけてるん？あ、カフェラテ飲む？｣
『ん、飲む』
｢りょーかい … なあ、そんなぎゅってされると動きにくいんやけど｣
『汐恩がどこかに行っちゃう夢みたの。行かないで言ったのに、いなくなるんだもん。』
｢どこに行ったん？夢の中の俺｣
『わかんない。段々透けて、空気に溶けていくみたいだった』
｢はは、そうなん？でも現実の俺はいつでもAのそばに居るやん｣
『それ、夢の中でも言ってたよ』
汐恩はここに居るってわかってるのに、なんだかさっきみた夢が不安で仕方なくて、どうにかしてこの人を離したくないと思った。
だから抱きしめた。この人の体温が、鼓動が、今ここに汐恩がいるよって教えてくれるから。
汐恩が世界でいちばん大好きだ。現実でも夢の中でも、この人にはずっと笑っていてほしいと思う。
そして、これから先 汐恩が幸せを感じる瞬間に私も一緒に立ち会っていたいと思う。ふたりで幸せを共有したい。汐恩を苦しめるものは私がやっつけてやる。
｢夢の中でも俺のこと大好きなんや、可愛いな｣
『そうだよ、あたりまえじゃん』
だからずっと、一緒に笑って居ようね。
この世界でも、夢の中でも。
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作者名：ヨカ | 作成日時：2021年8月22日 22時
