#208 ページ21
.
奥さんが焼いたクリスマスケーキは
金箔と雪の結晶の飾りが散りばめられた
華やかなブッシュ・ド・ノエルだった。
ココアの香りが立つチョコレートクリームが
口いっぱいに広がってほろ苦い。
ふわふわのスポンジと
甘すぎないクリームのせいで
私もマサくんもフォークが止まらず…
奥さん、こんなに料理が上手なのに
お店を閉めちゃうなんてもったいないな。
今まで来ていたお客さんだって
きっと寂しがっているに違いないのに。
『もう…、お店はやらないんですか？』
「そうねぇ…」
奥さんはフォークを置いて
珈琲を一口飲んでから改めて話し始めた。
「主人がいなくなってしまって
数ヶ月間、途方に暮れていたの。
もう、どうしたらいいか分からなくなって…」
『…』
「営業できずにいても、店には何度も来たわ。
主人が珈琲を淹れている姿が浮かんで
心が安らいでいたから」
『マスター…、愛されてたんですね』
「そうね(笑)」
厨房の方を見ながら
奥さんは うふふ、と可愛らしく笑った。
そんな横顔を見て
歳を重ねても愛を共有し合えることは
本当に素敵だなぁ、と思ってしまう。
「そんなある日ね… 若い男性が2人
この店を訪ねていらしたの」
窪「なにをしに…？」
「この土地を買いたい、って
頻りにおっしゃっていたわ」
『えっ』
「もちろん、その時はお断りしたの。
でも…、後々よく考えてみたら
年齢的にも この店を私1人で担える自信もなくてね。
だんだん手放すしか方法はないように思えて来たの」
窪「それじゃ…っ」
「年内に最終的な返事をくれ、と
ご連絡先を頂いているのだけれど…
今日こうしてあなた方に会えて決心できたわ」
『決心？』
嫌な予感がした。
奥さんの切なそうな顔にそぐわない
冷静な声から発せられる言葉の続きを
聞きたくない、と思ってしまった。
「店を売ることにし…」
『待って下さい！！！！！』
予感が的中した悔しさで
最後まで聞くことなく言葉を遮った。
自分でも驚くくらい、大きな声が出て
奥さんはもちろん、正面に座っていた
マサくんも目を見開いて驚いている。
『お願いです、待って下さいっ…』
「落ち着いて？」
『嫌です私っ…、そんなの嫌です！！！』
気付けば涙が溢れていた。
マスターと奥さんの絆が詰まったこの店を
無くすなんてこと… して欲しくないよ…
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 904人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おじょう(プロフ) - こなすさん★ご無沙汰しています。お身体の調子は大丈夫でしょうか？久しぶりに逢いにきてしまいました(*^^*) (2019年5月22日 19時) (
レス) id: 1c4a6319b1 (このIDを非表示/違反報告)
まこ(プロフ) - はじめまして。一気に作品を読ませていただきました。とてもとても素敵な作品で心が温かくなりました。作者さんの人柄だったり経験だったりが前面に溢れ出る素敵な作品なのだろうなと思いました。この作品に出会えて本当に良かったです。ありがとうございました！ (2018年11月25日 23時) (レス) id: 7cdfb99ab3 (このIDを非表示/違反報告)
和奏(プロフ) - 中3のわかなです。！実は私2ヶ月前に肺がんのステージ4と診断され、病院に入院しています。治る見込みは少ないと言われ落ち込んでいた私を元気にしてくれたのはkonasuさんのこの小説でした。本当に感謝しています。konasuさんも病気と闘いながら頑張ってください！ (2018年9月18日 1時) (レス) id: 7ee2ac1e66 (このIDを非表示/違反報告)
ポメ - こなすさんお疲れ様でした；；この作品が終わっちゃうのが少し悲しいですが、とても面白かったです！。素敵な作品をありがとうございました！ (2018年8月14日 10時) (レス) id: e76e17932f (このIDを非表示/違反報告)
おじょう(プロフ) - こなすさん、お疲れ様でした！！そして、本当に沢山の癒しと感動と愛をありがとうございました★完結嬉しいけど、やっぱり寂しいです(笑)こなすさん大好きです★★★ (2018年8月10日 12時) (レス) id: aece03adca (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ko*nasu | 作成日時：2017年7月13日 1時
