#206 ページ19
.
細い路地を進んだ先に見えた
懐かしい外観。
窓から漏れるオレンジ色の光が
昔と変わらず暖かくて優しい。
でもあの頃と少し印象が違って感じるのは
恐らく…、ドアについていたはずの
看板が外されているせい。
窪「いい？」
『お願いします…っ』
マサくんはドアノブを少し引いて
その隙間から「こんばんは」と
店の中へ顔を覗かせた。
直ぐに「いらっしゃい」と
ゆったりとした柔らかな声が返ってきて
ドアが一気に開かれる。
「あら…？」
『ご無沙汰しております…』
マサくんの後ろに立っていた私に気付き
奥さんは小さくお辞儀をした。
『ご無沙汰』なんて言葉を
一方的に使ってしまったけれど
私のこと…、覚えていないかもしれない。
あの頃の私は何の取り柄もない
ただの青い学生だったから。
「来て下さって嬉しいわ。
やっぱり…、あなただったのね」
『えっ』
予想していた返事とは違う言葉に
私は思わず顔を上げた。
隣でマサくんも首を傾げている。
「まぁ、とにかく中へどうぞ？
寒かったでしょう…、お入りになって」
『は…、はい』
窪「お邪魔します」
マサくんに背中を押され、
数年ぶりに店内へと足を踏み入れた。
暖房の効いた室内のおかげで
冷えていた身体が一気に温まるのを感じる。
カウンター席に伏せられた分厚い本の隣には
飲みかけの珈琲と老眼鏡が置かれていて、
長い時間 あの席で私たちが来るのを
待っていてくれた奥さんの姿が浮かんだ。
「お食事は、まだよね？」
『ええ…、まだです』
「あなたが学生の頃
よくそこの席で食べていたオムライス…
良かったら食べて行きませんか？」
『…？！』
奥さん、私のこと覚えていてくれたの？
確かに私…っ、学生の頃
ここの席で奥さんが作ってくれる
ふわふわのオムライス、いつも食べてた。
大好きだったから。
奥さんの作るオムライスと
マスターの淹れた珈琲の組み合わせが…
どうしよう、思い出して涙が出そうだ。
窪「頂いてもいいですか？」
涙を堪えていた私に気付いて
マサくんが背中をさすりながら
代わりに奥さんへ返事をしてくれる。
「もちろんよ」と頷いて
奥さんは厨房へと入っていった。
窪「…大丈夫？」
『大丈夫。ただ…、
すごく不思議な気分です』
私たちは向かい合って
2人席のテーブルに腰を下ろした。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 904人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おじょう(プロフ) - こなすさん★ご無沙汰しています。お身体の調子は大丈夫でしょうか？久しぶりに逢いにきてしまいました(*^^*) (2019年5月22日 19時) (
レス) id: 1c4a6319b1 (このIDを非表示/違反報告)
まこ(プロフ) - はじめまして。一気に作品を読ませていただきました。とてもとても素敵な作品で心が温かくなりました。作者さんの人柄だったり経験だったりが前面に溢れ出る素敵な作品なのだろうなと思いました。この作品に出会えて本当に良かったです。ありがとうございました！ (2018年11月25日 23時) (レス) id: 7cdfb99ab3 (このIDを非表示/違反報告)
和奏(プロフ) - 中3のわかなです。！実は私2ヶ月前に肺がんのステージ4と診断され、病院に入院しています。治る見込みは少ないと言われ落ち込んでいた私を元気にしてくれたのはkonasuさんのこの小説でした。本当に感謝しています。konasuさんも病気と闘いながら頑張ってください！ (2018年9月18日 1時) (レス) id: 7ee2ac1e66 (このIDを非表示/違反報告)
ポメ - こなすさんお疲れ様でした；；この作品が終わっちゃうのが少し悲しいですが、とても面白かったです！。素敵な作品をありがとうございました！ (2018年8月14日 10時) (レス) id: e76e17932f (このIDを非表示/違反報告)
おじょう(プロフ) - こなすさん、お疲れ様でした！！そして、本当に沢山の癒しと感動と愛をありがとうございました★完結嬉しいけど、やっぱり寂しいです(笑)こなすさん大好きです★★★ (2018年8月10日 12時) (レス) id: aece03adca (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ko*nasu | 作成日時：2017年7月13日 1時
