マーマレードプリン【オレンジ】

＊部屋に入れない ページ2

「マグマきた」



ソファでギターを弾いていた彼氏がつぶやいた。



私はすぐに上着を羽織り、



何枚か下着と服をカバンに入れて



携帯と財布を持って部屋を飛び出した。



ミュージシャンの彼氏と同棲して6年。



彼は昔、甘いマスクでキャッチーなメロディーを奏でていたプロのバンドマンやった。



レーベルと事務所とメンバーと音楽性の違いでもめてソロになり、事務所もバンドも辞めた。



レーベルともめた情報は瞬く間に音楽業界に拡がり



彼を拾ってくれたのは以前お世話になっていた



大物プロデューサーが紹介したインディーズの小さなレーベル。



昔は1000人規模のホールでライブをしていた彼。



今は300人も入らない小さなライブハウスのステージに立っている。



一度だけヒットチャートに乗った彼の名前を



現在は知っいる人はほとんどいない。



「マグマきた」



これは、自分の中から曲のアイデアが生まれそうという彼独自の合図で



曲が生まれるまで一人で集中したいから



部屋を出て行けと言うこと。



「生まれた」ってメールが来るまで部屋に入れない。



部屋に入ったとバレると大事にしてたアコースティックギターを壊されてしまう。



………家賃、ほとんど私が払ってるのにな。



友達はみんな彼の事を



ヒモだとか売れないミュージシャンだとかバカにするし



何で彼にしがみついてるのかわからないと言う。



私は彼に憧れて昔バンドをしていた。



けど、才能がない私はオーディションすら受からなかったし



ライブの動員も50人も呼べなかった。



私は彼にしがみついているんじゃなくて



彼の夢にしがみついているんだと思う。



「……漫喫でも行くか……」



自転車に乗って、近くの漫画喫茶に向かった。

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