心から ページ12
Aside
目を覚ますと、辺りは闇に包まれていた。私は下着を来た状態で、隣には半裸で寝ている春千夜がいた。ズキズキと痛む頭を押さえながら、私は寝る前の事を思い出す。
夕方頃、薬の副作用により情緒不安定になった春千夜は、再び私を佐野万次郎だと勘違いしていた。春千夜は私を抱き締めて離さなかったので、むりやり引き剥がそうとすると、右頬をバチンと叩かれる。そしてその行動を謝りながら再び私を抱き締めた。
彼は今、私を誰と認識しているのだろう。
春千夜は暫く私を抱き締めていると、バッと立ち上がり私の腕を引く。連れてこられたのは寝室で、そのままベッドの上に放り投げられる。スプリングの音が響く中、私はこれからここで何が行われるか、直ぐに理解できた。
何度も抵抗した。こんな形で抱かれたくなかった。せめて私を私だと認識している時にしてほしかった。
行為中の彼は、一度も私の名前を呼ぶことはなかった。ただ己の欲をぶつけるように、何度も何度も私を抱いたのだ。
なんとも言えない虚無感が私を襲う。よく頭が回らない中、私は服を着て外に出る。佐野万次郎が死んで約三ヶ月。秋の夜風は冬を呼ぶかのように少し冷たく、けれどとても心地良いものだった。
少し散歩をしよう。
私はもうあまり人気もない道を歩き始めた。定期的に痛みが走る腰を抑えながら、一歩ずつ歩を進める。それからどのくらい歩いたのだろう。目の前には大きな橋が掛かっていた。長い長い橋。スマートフォンで位置情報を確認すると、画面には「東京港連絡橋」と書かれていた。いつの間にこんなところまで来ていたのだろう。まぁいいか、とそのままその橋を渡り始める。
橋の真ん中くらいまで歩いた所で、一度足を止める。ここから見える水面がとても綺麗で、思わず見とれてしまう。
そしてその時、ふと“死”を連想した。
この綺麗な水面に飛び込んで死にたい。
今はちょうど車が通っていない。死ぬにはピッタリのコンディションだ。私が先に死んだら、春千夜はどうするんだろう。後を追って死んでくれるだろうか。少しでも私に“愛”という感情を抱いてくれるだろうか。
最期だというのに春千夜の事を考えながら橋の上に立つ。あと一歩前に進めば、そのままこの世とおさらばだ。
『…じゃあね、春千夜』
私は貴方に、心から愛されたかった。
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ひめ☆そら(プロフ) - 悠さん» ありがとうございます!私も梵天ifは見たことないなぁ…と思いながら作らせて頂きました!最後までどうぞよろしくお願い致します! (2021年9月3日 23時) (レス) id: f06e616829 (このIDを非表示/違反報告)
悠 - 梵天でこういったifみたことなかったので楽しみです!更新待ってますね!!! (2021年9月3日 19時) (レス) id: d04a74515a (このIDを非表示/違反報告)
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