弱い男の子 ページ37
Aside
【六月二十日二十二時】
雲行きが怪しくなってきた。
武蔵神社の石段に座りながら、空を見上げ、そんなことを思う。
雨は嫌いだ。ついでに言うと苗字も嫌いだ。
今朝、来週には梅雨入りするだろうというニュースが流れていた。最近の天気予報はあまり当たらない。だから今回のもあまり期待はしていない。
私は自分の苗字に“雨”が入っている。五月の雨と書いて五月雨。五月雨の“五月”は陰暦であって、これは現在の“六月”にあたるらしい。それならいっそのこと六月雨に変えてしまえばいいのに。読み方は“むつめ”なんてどうだろう。まぁ、別にどうでもいいか。
そこで私は、自分の前に現れた人物にやっと視線を向けた。
『…久しぶり、佐野』
「…」
石段を立ち上がり佐野を迎えると、彼はそのまま私の元まで歩いてハグをした。ギュッと力が強くなるその愛に答えるように、私も佐野の腰に手を回し受け入れる。
「…全部話す」
『…』
それから再び石段へと座った私と佐野。そして私は佐野から全てを聞いた。佐野の中にある“黒い衝動”について。そして武道のタイムリープについて。しかしタイムリープについては、話を聞きながら自分も理解者であることを話した。佐野は少し驚いた顔をしたが、暫くして「そうか」と悲しそうな顔をしながらそう言った。
佐野はきっと、どの未来でも私が彼に殺されるという事実を知られるのが怖かったのだろう。だから、今は私の事を殺さないように自分を抑えている。
『佐野があの日別れを告げたのは、私を守るため?』
「…そうだ」
『でも結局、去年あの場所で、私たちは良からぬ形で再会してしまった』
「…」
『きっと佐野の事だから、ずっと我慢してたものが一気に溢れちゃったんでしょ?』
佐野は昔からいつも自分で抱え込む人だった。誰にも弱みを見せない。けど、ふとした瞬間、弱い男の子に戻るのを私は知っている。その時は自分の心の正直に、素直になるように、よく私に甘えてきた。
今になって思う。あの日、再会したあの日から、佐野は私に甘えていたんだ。
「ずっと怖かった。いつの間にかお前の事殺してしまうんじゃないかって。気づいたら目の前で死んでるんじゃないかって」
『…』
「でも、何でだろうな。お前の前だけでは、“昔の俺”でいられた」
“昔の俺”
その言葉の重さを、私は知っている。
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エリザベス女王 - う、、、目から滝が、、、!武道のタイムリープで幸せになってるといいですねぇ、、、✨三途君の恋が、、、あの裏には恋心があったなんて、、、⁈伏線回収上手すぎです‼︎素敵な小説ありがとうございました! (2022年7月29日 19時) (レス) @page47 id: c75fcc9307 (このIDを非表示/違反報告)
ひめ☆そら(プロフ) - ち ゆ。さん» ちゆたん…!!こちらこそ読んでくれてありがとう( ᵒ̴̶̷̥́ ⌑ ᵒ̴̶̷̣̥̀ ) (2021年10月30日 16時) (レス) id: f06e616829 (このIDを非表示/違反報告)
ち ゆ。(プロフ) - 最初から最後まで感情が揺さぶられて毎度ページを開く度にドキドキしまくった…(><)ラストの方ほんとにしんどくて心臓きゅってなった(;;)辛いけど綺麗な終わり方しててとても感動しました!素敵な作品をありがとう! (2021年10月30日 12時) (レス) id: 7bb8e59749 (このIDを非表示/違反報告)
ひめ☆そら(プロフ) - ゴリラの末裔さん» お返事遅くなってしまい申し訳ございませんっ!勿体ないお言葉…!!ありがとうございます!!! (2021年10月13日 23時) (レス) id: f06e616829 (このIDを非表示/違反報告)
ゴリラの末裔 - 神はここにいた、、、、、 (2021年10月10日 23時) (レス) @page47 id: 566df7a38f (このIDを非表示/違反報告)
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