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貴女へ贈る曲-ﾌﾞﾙｯｸ×ﾛﾋﾞﾝ-【OP】ページ3

頭にもやが掛かったようで小一時間ほどペンが止まっていた。だらりと背をかけ、散らばった失敗作の塊たちと零れたインクが彼の格闘を物語っていた。

「ああ～......駄目ですね」

ため息を吐きながら手で顔を覆う。おもむろに胸ポケットから煙草を取り出しマッチで火をつける。
あっという間に視界すら不明瞭になっていった。

「ブルック、ここに居たのね」

彼女は無気力な彼を見つけると何が面白いのか分からないがふふ、と小さく笑った。恐らくこの有様に滑稽だとでも思ったのだろう。彼女はそのまま隣に腰を下ろした。

「もらうわね」

許可を待つことなく彼の煙草をくわえ、彼のちりちりと燻っているそれに押し付けた。
無言のままに、じり、と熱が移っていく。
目が合う、というよりも眼孔を見つめるというのが正しいだろうか。その眼孔から彼の呼吸に合わせてほのかなバニラの香が立ちのぼる。
彼女が緩やかに顔を離すと彼はようやく言葉を発した。

「ロビンさん」
「ずいぶん詰まってるのね」

書きかけの楽譜を艶やかな指がそっと撫でる。

「ええ、新曲ができると思って描き始めたはいいものの、納得がいかなくて」
「あら、あなたにもそういうものがあるなんて意外だわ」
「こんなに手が止まるのも久しぶりです......そしてこんなにも心臓が止まりそうになるのも」

あっ、私心臓ありませんでした、とお決まりのスカルジョークを決めるものの声にいつもの陽気さは無く。
尻すぼみ気味に放たれたそれを紛らわすようにヨホホと大きく笑う。
それも彼女が空いた骨の手に手のひらを重ねるとぱったりと止んだ。
それからしばらく二人分の微かな呼吸音が続いた。
不意に彼は煙草を消すとロビンを抱き寄せた。

「出来ました!!!」

突然の行動にロビンは驚いたまま身動きが取れなかった。無機質な骨に覆われながら上からのぞく彼のさっきとは別人のような表情にただ笑った。

「出来たって、何が出来たと言うの?」
「新曲です!ロビンさん、幻想曲(ファンタジア)を貴女に」

サッと立ち上がりどこからともなく取り出したバイオリンを手に彼は奏でる。
その音色は美しく二人を繋ぐ。果てしなく広がる五線譜の上に自由に紡がれる音符をたどりながら記憶に刻まれていく。それは二人の中で永遠に生き続けるだろう。

気付けばオーディエンスは増え、そのまま宴へと変わっていった。