紺碧のお酒物語 〜３杯目〜

微笑みに隠した熱 ページ5

「できれば２人きりでお話ししたいです…実は上に部屋を取ってあるのですが」
『嬉しいわね…でも、今日は止めておくわ。今の貴方…獣みたいだもの、せめて紳士の仮面を被って出直すのね』


目の前で微笑むキティはグラスを傾けると長い黒髪を揺らして微笑んだ

漆黒のミニドレスからほっそりした足を惜しげもなく晒して琥珀色の瞳を猫のように三日月に歪める彼女は贔屓目無しに見てもこの場の誰より美しい


「…中々厳しいですね」

周りから嫉妬や羨望の視線など、今の俺には視界にすら入らなった






今日の任務が彼女と２人だとわかった俺は任務などそっちのけで少しでも彼女に近づくための策略を巡らしていた

約２年振りに帰ってきたキティは世界各国のNOCの粛清を行っていたらしい、その功績から組織内での地位も上がっている彼女に擦り寄ろうとする者は多い(まぁ片っ端から誰かさんにより消されたようだが)

彼女が居ない間のジンの荒れようは凄まじかったらしい
それほどに影響力のある彼女を警察庁も最重要人物としてマークしているがその実態については碌に掴めていない、彼女の偽の戸籍以外、何も情報が出てこないのは一体どういうことだ…？


彼女が消えて間も無くライの正体がFBIの赤井秀一だと判明した時、俺はならどうしてと思わざるを得なかった

何故、あいつはスコッチを救ってくれなかった？
…今思えば疑問点は沢山転がっていたのに、冷静になった俺が詰問する間も無くライは姿を消した

悶々と過ごした２年を経て巡ってきたチャンス、逃がすわけにはいかない
彼女は変装の名手、一度逃がすと次に何処で捕まえられるかわからないからな…彼女の情報を少しでも掴んでおきたい

あの時少なからず彼女に負の感情を晒したことは些か不味かったか…だが仮面を被るのは得意だ、この憎しみはまだ最後に取っておいてやる



こいつは俺の獲物だ、誰にも渡しはしない






『…私、お酒より紅茶が飲みたいわ』
「は…紅茶、ですか？」


内心考え込んでいた俺はぽつりと呟いた彼女に反応が遅れてしまった、紅茶なら確か奥に用意してあったか…


「なら取ってきますよ」
『違うわ、…あんまり上品過ぎるのは嫌いなのよ。そうね、あそこがいいかしら』
「あそこ、とは？」
『ふふ…貴方も来るでしょう？』



言い終える頃にはもう歩き出していたキティ
振り向きもしない彼女に若干戸惑うも、俺に断る理由など無かった



前で静かに微笑んでいた彼女に、今の俺が気付くことは無かった

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