【d!】愛憎のカトラリー【短編集】 (ページ10)

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これはしょうがなかったんや /tn byいにゅ。ページ10

※学パロです
トントンside

どうしてこうなった。

外は雨だった。きたる体育祭に向かい、俺たち体育委員は毎日放課後残らされている。
バイト先には頼み込んでシフト調整をお願いした。まあ、そのお陰で俺は、絶賛片想い中の女の子と二人で作業に没頭することとなった。単純に接触時間が増えるのだ。彼女も勘違いしてしまえばいいのに。

「トントンって、手先器用だねえ」
　のんびりと呼ばれた名前にに心臓が跳ねる。俺の気も知らないで、彼女は器用に色紙で作った花を開かせていた。綺麗な装飾だ。
遠くで雷が聞こえた。夕立も風物詩なのだと、最近ようやく理解した。今年も夏が来る。
「雨、ひどくなりそうだね…」
「ほんまや…じゃあキリいいとこで上がりますわ」
「そうだね！」
　彼女は相変わらず、にこにこしながら話を聞いてくれた。ただの業務連絡やのに、優しい子やな。と心の中で呟く。

　いつの間にか外はひどい雨だった。
「うわ、ほんとにひどくなったなぁ」
「雨宿りしてからのんびり帰るよ～、私」
　突然、バリバリバリバリと空間を裂くような雷鳴が聞こえ思わず目を見開いた。
彼女はといえば、びゃっっと飛び上がってまたバランスを崩しそうになった。
　本能が求めるまま、彼女を両腕で抱き寄せた。驚いたのか大きく見開かれた瞳がきらきらしていて、やっぱりきれいだと思った。

埃っぽい教室の床で二人、抱き合いながら妙なあの雰囲気に呑まれる。
ふと肌にまとわりつく湿気に気づいた。もしや、と教室の隅に集中すると、エアコンの稼働音が聞こえない。停電か？
「……あつい、ね」
　ぽつりと彼女が呟いた。たまらなくなって、細い手首をつかむ。健康的な弾力に眩暈がした。A。A。俺のすきなひと。
「あついね、トントン」
　やわらかい言葉の端が熱っぽく潤んだ。
　ガラッ。そんな音が部屋に響いた。誰か見回りに来たのか。俺は気が気でなかった。

　最大限落としたトーンでひそひそと話し合う。
「ちょ……何でこんなとこに隠れたん？」
「だ、だって、見つかっちゃう」
　見つかっちゃいけないことをしていると、自覚していたのか。
「あ、んん、ま、トントン、動かないで」
　ぷにゅん、と骨を押し返す感触に体がカッと熱くなる。
「………………」
　視線がかち合うだけで血が沸騰しそうだった。冷たいロッカーの壁に押し付けながら、彼女の顎をすくい上げる。初めて触れた唇のやわさに、堪らず歯を立てた。