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君、ただ一人 *振騎玄蕃 ページ46

道案内で、見知らぬ人を見送った。すぐあとのこと。

ふと、ひらり。
視界の端を、オレンジが掠めた。導かれるようにそちらへ目を向けると、そこには恋人である玄蕃の姿があった。


「やあ、ご機嫌いかがかな?」


彼はするりと私の肩を抱き、身を寄せる。それから、耳に一つキスをした。"誘惑"の意味を込めて。


「ッ、玄蕃……!」

「ん?」


飄々として、常に穏やかに微笑んでいる。
何を考えているかわからないけれど、たぶん、私のことは好きでいてくれているのだと思う。こうして、愛情表現をしてくれるから。
けれど、実際どれほどに、どのような愛を向けてくれているのかはわからなかった。


「あぁ、そうだ。A、何か欲しいものはあるかな」

「欲しいもの?……だから、ないって言ってるじゃない」

「遠慮しなくていい。私は調達屋、何でも好きなものをあげよう」


彼は、ときおりこうして私へ何かをプレゼントしようとしてくる。欲しいものなんか言ってしまったら、彼は私に必ず用意してくれるのだ。安くても、高くても、どんなものでも。
私は彼に、そんな時間と労力、そしてお金をかけさせたくないのだ。


「ないわ」


私の声色が、突き放すような言い方になってしまった自覚はあった。
けれど、まさか彼が今にも泣き出しそうな顔をするなんて、思わなかったのだ。


「なんでも言ってくれて構わないんだ」

「……玄蕃?」

「高価な宝石でも、ブランドのバッグでも、なんだって、私が用意するから」

「ねえ、玄蕃」

「私は!君のためなら何だってできる、だから」

「玄蕃、お願い。話を聞いて」


彼は、ふるふると首を振って、私の肩を掴む。その手は、縋るように強い力だった。
それに、彼は顔を俯かせて、私を見ようとしない。


「私は、あなたがとなりにいてくれるならそれでいいのよ。他に何もいらない」

「………え、?」

「何か変なことを言ったかしら」

「私は、今まで……」


困惑するその表情は、きっと彼の元カノたちのせいだろう。やたらと私に何かあげようとしたのは、ずっと何かを求められていたのだろうか。彼が私に言ったものを。
彼の過去に大した興味はないが、その女たちの記憶は消し去ってあげたかった。


「まあ、随分下手な女に引っかかってきたのね」

「……君が、求めるのは」

「玄蕃。あなただけよ
 あなたが、私に求めるのは?」


そう言うと、玄蕃は朗らかに笑う。表情と同じく安心した声で、期待通りの言葉を告げた。

夢の中でも *ヤンマ・ガスト→←君だけの理由 *鳴田射士郎



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悠夢(プロフ) - *桜もち。さん» ご感想ありがとうございます!お褒め頂けてとても嬉しいです……!応援の言葉までありがとうございます。自分なりに頑張りますね! (1月12日 17時) (レス) id: 5e7eb9f08a (このIDを非表示/違反報告)
*桜もち。(プロフ) - 初めまして…!主様の小説を初めて拝見させて頂きました!凄く読みやすくて素敵な文章だと思いました✨無理のないように更新頑張って下さい…! (1月10日 20時) (レス) @page44 id: fae296cbc1 (このIDを非表示/違反報告)
悠夢(プロフ) - 余白のむらさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけると気持ちが楽になります…!早く帰って来れるように頑張りますね! (2022年2月6日 23時) (レス) id: 5e7eb9f08a (このIDを非表示/違反報告)
余白のむら(プロフ) - 私も他のジャンルに沼って小説がかけなくなることが多々あります……笑 悠夢さんが帰ってくるまで待っています! (2022年2月6日 21時) (レス) @page24 id: 3edb9aa810 (このIDを非表示/違反報告)
悠夢(プロフ) - 稜雅さん» 初めまして。ご感想とリクエスト、ありがとうございます!お楽しみいただけているようで良かったです!センさんのお話かしこまりました。 (2022年1月23日 10時) (レス) id: 5e7eb9f08a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:悠夢 | 作成日時:2021年12月19日 8時

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