それは不可抗力から始まった・・・のかもしれません。

ゲームの続き？ ページ29

(井ノ宮SIDE)

なんだかんだ恥ずかしかったゲームも、伊沢さんの
「ハイ、ストップ!」
という声で終了して。水上さんが
「もうダメだ・・・・・見てられねえ・・・」
なんて意味の分からない言葉を呟きながら、机に蹲(うずくま)っている。

「井ノ宮ちゃん、作業お疲れ!流石に時間使いすぎだし、そろそろ帰ろっか!」

「こうなったのは誰のせいだと・・・」

水上さんが何かブツブツ言っているけど、伊沢さんは、満面の笑みで、華麗にスルー。

「ほら、水上、井ノ宮ちゃんを送ってあげないの？」

「・・・・・」


いくらか間があって、水上さんが立ち上がる。
そのまま私の手を掴んだかと思うと、グイッと強引に引っ張って、乱暴に部屋を出ていった。
そのまま私と顔も合わせてくれず。伊沢さんにからかわれて、機嫌が悪いのかな、って思っていたら。

「井ノ宮さん、嫌でしたか?」

「えっ？」

「さっきのゲーム。出会って1ヶ月も経ってない人に『さん』付け解除されるの、嫌でしたか?」

「ううん、嫌じゃない・・・です。」

むしろ、名前で読んでほしかった。知香って。
そう思っちゃ、いけないのかな。

「水上さんは、嫌だったんですか?」

そう尋ねると、水上さんは、物凄く悲しそうな顔をして。
私の頬に、そっと触れる。

「嫌じゃないけど・・・こうやって井ノ宮さんに、赤の他人の様に接するのは耐えきれません。」

一瞬、何を言っているのか分からなくなって、ポカーンとする私に、水上さんがそっと耳打ちする。


「これからは、『颯くん』って呼んで。
・・・・・・・いい、約束だよ?」

包み込むような優しさと。閉じ込めてしまいそうな魅惑と。どちらにもなってしまいそうなその声に。
抗うことも、聞き返すこともできずに。
私は顔を赤くして、コクリと頷いた。

颯くんはそんな私を見て、満足げに微笑むと、

「そういえば、下の名前、僕も知らなかったな。」

と呟く。

「知香っていうの。井ノ宮、知香。」

「ふーん、いい名前だね。
・・・・・じゃあ、知香。」

「ちょっ、いきなり呼び捨て!?」

「んー、だめ?」

「だ、ダメじゃないけど・・・・・」

「じゃ、別にいいじゃん。」

そう言って彼は、ふわりと笑った。
その笑顔を見ると、もう何も言えなくって。
それが分かっててやったな、と思うと悔しいけれど。

そうやって『私のために』笑ってくれたのは初めてだから。 まあいいか、と私も笑い返した。

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