君と出逢えた奇跡【1】 (ページ39)

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Aの近くに居たファンは
この事態に気付き戸惑いを見せているけれど

岸くん、神、海人が
会場の空気を悪くしないように
大袈裟なパフォーマンスや
ファンサをしてくれているおかげで
この異変に気付いていないファンも居る

だから騒動が大きくなってしまう前に
事態を収集しなければいけないと思った

紫「とりあえずステージを降りた方が良い
　廉、後は頼むよ」

廉「うん、分かった」

紫「行くぞ」

　『………でも』

Aの手を引き歩き出そうとした

だけど…彼女は自分の腕を引き返し
それを嫌がった

　『…私、歌えます！』

紫「ダメだ、これは約束だっただろ！？」

　『………』

紫「お前が良くても俺は許さない
　これ以上ファンを不安にさせるな！」

俺の言葉を聞いて彼女は
驚いたように目を大きくし
黒目を揺らしながら『…分かりました』と
小さな声で呟いた

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そしてAの手を引き
キラキラと眩しかったステージを降り
衣装や小道具が並んだ舞台裏に辿り着くと
彼女は直ぐに俺へと謝った

　『……すみませんでした』

紫「…何の謝罪だ？」

　『花道は危険だって言われていたのに
　大丈夫だからって軽々しく言って
　本当にすみませんでした』
　
　

確かに…花道は危険だと反対されていた

でも、それを条件付きで了承したのは俺だ
だから謝る必要なんて無いのに…

　『それに…平野さんはファンの方たちの為に
　ステージを降りさせようとしていたのに
　私は…自分のことばかり……っ…』
　

言葉を詰まらせた彼女の瞳から
涙が伝い落ちると
頬に付いた墨汁を滲ませ流れた

初めて見たAの涙と
真っ白な衣装を悪意で黒く染めた姿

俺は彼女を憎らしく思っていたはずなのに
その姿を見ていると胸が苦しくて
何でAがこんな目に遭うんだ…と
今までとは別の感情が生まれたんだ

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