深愛モラトリアム【2】 (ページ7)

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柏「彼女にとって愛する人との子供である
　 Aさんが自分の命よりも
　大切だったんです
　それだけは分かってあげて欲しい」

紫「Aは捨てられたんじゃない
　お母さんはきっと
　何よりもAの誕生を望んでいたよ」
　
　
　『……っ………』

柏「もしAさんが生まれたことに
　意味を持たせるとしたら
　それは彼女があなたを愛する為」

紫「……俺もそう思う」

　『………っ……うん…』

母は私を命懸けで産んでくれたんだ

要らなくて置き去りにされたんじゃない

柏木さんが言う通り
もしかしたら迎えに来て
二人で強く生きて行こうと
してくれていたのかもしれない

今まで母から貰ったものは
このネックレスだけだと思っていたけれど
きっとお腹に居る時に
想像も出来ないほどの愛を注がれていたんだ

だって自分の命よりも
私の命を守っていてくれたんだから…

涙の止まらない私の手を
紫耀は優しく握りしめてくれた

柏「他に聞きたいことはある？」

ただ泣くしか出来なくなった私に
柏木さんがまた声を掛けてくれる

…私にはずっと知りたかったことが
あと一つだけあるんだ

それは…

　『母の…名前を教えてくれませんか？』

柏木さんの目を見て
知りたかったもう一つの質問をすると
彼女はまた驚いて私を見つめ返している

柏「…知らなかったんですか？
　じゃあ、Aさんは
　何故YURIと名乗っているの？」

質問の意味が分からなかった
だけど彼女の疑問に正直に答える

　『私の名前は百合岡 Aです
　これは施設の園長先生の名前で
　施設名の＂ゆりの丘＂にもなってます』

柏「……ゆりの丘」

　『YURIと名乗れば母が名前にピンと来て
　気付いてくれるかもしれないと
　思ったからです』

柏「ふふ、縁も所縁もない名古屋に居たのは
　その為だったのね」
　

柏木さんは嬉しそうに笑みを零す

柏木さんが今、頭の中で
母の顔を思い浮かべているのだと思うと
それが出来ない私はとても羨ましく感じた

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