48 生まれてきた意味 ページ1
Aside
『もう一人来るので
少し待って貰えますか？』
大通りで拾ったタクシー
運転手さんにそう伝えると
岸さんが来るのを待っていた
ずっと…母に会ってみたくて
この瞬間を待ち侘びていた
でも、いざとなると怖くて
紫耀に付いて来て欲しいと思った
子供の頃なら、きっと
当たり前に付いて来てくれたと思う
だけど今の私たちには
そんなことでさえも
もう難しくなってしまったんだね…
沈黙の続いた車内
気を遣ってくれたのか
気まずくなってしまったのか
運転手さんはラジオを付けてくれた
でもラジオから流れて来たのは
King＆Princeのデビュー曲
会えなくなってから
やっとその姿を見れたのが
テレビの中でこの曲を歌っている紫耀だった
思わずテレビに手を伸ばし
もう冷たい機械の中でしか会えない
それなのに…ようやく会えたと複雑な感情で
泣きながら見ていたことを鮮明に思い出して
また胸が押し潰されそうに痛くなる
涙を堪え気を紛らわす為に
タクシーの窓の外へと視線を投げれば
そこには最新アルバムの宣伝の為に
彼らの巨大な看板が掲げられていて
この世界にはもう至るところに
紫耀が溢れているんだと実感する
私は紫耀が居ない世界を
一人で生きて行けるのかな…
この胸の中には世間に居る以上に
…紫耀がずっと棲みついているのに
でもね…もう自信が無いんだよ
紫耀の気持ちを覆すことも
彼に突き放されて
二人の関係が変わってしまったという
この現実を見ていることも
…やっぱり私は
ここに来てはダメだったんだね
.
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作者名：莉衣子
| 作成日時：2022年7月4日 22時
