◇ ページ15
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『海人！もう暗くなってる
危ないから戻って来て！』
大きな声で叫んでも
海人は振り向くこともせず月に向かい
まるで海に吸い込まれるように
歩き続けていた
『海人！お願い、行かないで！』
私は振り向くことのない彼を追うように
海の中に入り追いかける
でも…浅瀬の海水が
私の足に巻き付くように引き止め
なかなか前に進めない
海に消えていきそうな背中に
必死に手を伸ばすけれど
二人の距離は離れて行くだけだった
紫「A！」
『紫耀！海人が海に！』
紫「行っちゃダメだ！」
『お願い！海人を助けて！』
紫「しっかりしろ！！」
普段は穏やかな紫耀の大きな声で
体が固まったように動かなくなった
『紫耀…海人が…』
紫「…海人は…居ない」
『だって！今まで…ここに！』
紫「海人は…もう居ない…
あの台風の日…海人は海で…」
『…………え？』
そうだ…そうだったね…
あの日…浜辺に走りついて
私が見たのは救急車に乗せられる…海人
そして…びしょ濡れで立ち尽くす紫耀だった
私はその事実を受け入れることが…怖かった…
紫「…助けられなくて…ごめん」
紫耀が謝ることなんて何一つない
そんなことは分かっている
だけど…私は海人を探すように…
後を追うように…何度も海に入ってしまうんだ
でも…その衝動が…
こんなにも紫耀を苦しめているのだと
目の前の彼が流す涙で…やっと気がついた…
『ごめんなさい…紫耀』
紫「…俺は絶対に居なくならないから
だからAも居なくならないで」
抱きしめられた紫耀の腕の中で見えた
海に浮かぶ月は揺れることなく穏やかで
そこには誰も居なかったんだと
改めて思い知らされる
この夏、海で一緒に過ごしていた海人は
私が作り出した…夏の幻だったんだ＿＿
.
【月が揺れない理由】おわり
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莉衣子(プロフ) - しおりさん» 泣いてもらえるなんて嬉しいです！短編集の紫耀くんは幸せな話が少なかったので最後はハッピーエンドに出来て良かったです！ (2021年3月31日 8時) (
レス) id: b19a23a34c (このIDを非表示/違反報告)
莉衣子(プロフ) - こあさん» ありがとうございます！個人的に短編集が難しかったから、そう言ってもらえて嬉しいです。書き始めて良かったです！！ (2021年3月31日 8時) (レス) id: b19a23a34c (このIDを非表示/違反報告)
しおり(プロフ) - 最後のラブレターのお話で、短編だったのに見事に泣いちゃいました、、、主人公ちゃんと平野が幸せになって良かった、、、 (2021年3月31日 0時) (レス) id: 199b427b1e (このIDを非表示/違反報告)
こあ(プロフ) - 完結、おめでとうございます。莉衣子さんの短編集どの話も大好きです。最後の２つも最高でした！！！ (2021年3月30日 23時) (レス) id: f6c76a4ec8 (このIDを非表示/違反報告)
莉衣子(プロフ) - かいとんさん» かいとんさん、コメントありがとうございます。そしてリクエストもありがとうございました！海ちゃん褒められるのホンマ嬉しい、短編集じゃなく一つのタイトルでまた海ちゃん書きますね！玄樹くんのことは朝起きても悲しみは消えませんが彼の幸せを祈りたいです。 (2021年3月30日 8時) (レス) id: b19a23a34c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：莉衣子
| 作成日時：2021年1月6日 8時
