未完成な私たちは (ページ22)

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父「ちょうど良かった、いつもの頼む」

海「今…これしかない」

海人は財布から
お父さんに千円札を数枚差し出していた

父「これだけじゃパチンコも行けないだろ」

海「給料前なんだよ」

父「だからもっと稼げるところに行けって
　言ってるんだよ！何で分からないだ！」

勢いよく海人の胸ぐらを掴んだその人は
大きく腕を振り上げていた

　『止めてください！』

思わず声を上げて
その腕が止まったのを確認したら

私は財布から親が十分過ぎるほどくれる
生活費の中から数万円を取り出し
その人の胸に押し付けると
海人の手を掴んで走った

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必死だった…追いかけてくるんじゃないかと
考えてしまったら怖くて止まれない

海「A！もう来てないから」

海人の声で我に帰り
辺りの景色を視界に映すと
無意識のうちに自分のマンションまで
走り付いていたんだ

海「Aはいつも走ってるね」

　『……そうだね』

海「あれは…父親
　母親に逃げられてから
　お酒とギャンブルに溺れてるんだ」

　『………』

海「お酒の方はきっと依存性で
　買えないとイライラして
　殴られるようになった」

　『…ごめんなさい、海人
　私、何も知らなくて酷いこと言ったよね
　海人には…分からないなんて』

海「良いの、俺が
　知られないようにしてたんだから」

想像もしていなかった海人の秘密

彼にもっと聞きたいことがあるのに
夜の街並みにスマホの音が鳴り響いた

海「うわ…やばい！バイト中だったんだ」

　
　『…あ』

海「俺、行かなきゃ」

　『…え、待って』

海「明日は学校に来て、ちゃんと話をしよう」

　『分かった、必ず行くから』

お互いの秘密を知ったばかりなのに
海人はいつもと変わらない笑顔を向けると
手を振りながら走って戻って行った

夜に消える海人の姿が見えなくなるまで
私はただ立ち尽くしていたんだ

海人、あなたはどうして笑っていられるの？

何も気付けなかったことが悔しい
自分のことばかりで
彼のことが見えてなかったんだ

知りたいよ…今以上に海人のことが…

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