・ ページ2
・
「それで?面白くて一気読みしちゃったんだ?」
工藤先生から本を借りた3日後。
生まれてから初めて、こんな分厚い本を読んだと思う。
普段読書をしない私にとっては敷居が高すぎると思っていたその本を見て、
クラスメートであり友達のミキはニヤニヤと笑った。
『読書っていうより、工藤先生が好きなもののこと、知りたいって思ったんだよね。』
何気なく言ったその言葉に、ミキは素早く反応する。
「好きだねー工藤先生のこと。」
ミキの台詞にムッとする。
……自分だって体育科の服部先生が好きなくせに。
喉元まで出かかったその言葉を飲み込み、がたんと席を立った。
『よし、この本返してくる。今日授業の時に返し忘れちゃって。』
「いってらっしゃい、ついでに告って来い!」
そう囃し立てるミキに白い目を向けて、私は教室を後にした。
・
てっきり職員室にいると思っていたが、そこに工藤先生の姿はなく
同じ国語科の先生に聞いたところ、準備室にいると言うのでそこへ向かった。
歩きながら頭の中で工藤先生に伝えるべき言葉を考える。
____ありがとうございました。とても面白かったです。
うーん、普通過ぎる。
__あのシーンの犯人の気持ちが、、、
真面目過ぎな気がする。
結局何も浮かばないまま、準備室に到着してしまった。
ひとつ深呼吸をして、扉を開こうとしたその時。
「工藤せんせ〜、センセイのためにお弁当作ってきたの〜。」
準備室の中から、女子生徒の声が聞こえてきた。
「良かったら食べてくださ〜い。」
「あっ、私もお菓子作ってきたんだ〜!」
複数人の女子生徒がいるらしい。
工藤先生はまんざらでもなさそうにしている。
私は持っていた本を意味もなく握りしめた。
なんだろう。すごくむしゃくしゃする。
今まで感じたことのない苛立ちに、自分自身で戸惑う。
………出直すか。
また明日も授業があるわけだし、その時でも問題ないだろう。
そう自分に言い聞かせて準備室に背を向ける。
とほぼ同時に、準備室の扉が音を立てて開き、中から女子生徒が三人出てきた。
「またね〜工藤せんせ。」
「また明日来まーす(笑)」
工藤先生にひらひらと手を振りながら、私を追い抜いて教室の方へ戻っていく。
「あれ、A。どーした?」
背後から、先生が私の名を呼ぶ。
2人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:七葉 | 作成日時:2019年5月6日 0時