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結局医者による診断は予想どおり「寝不足と過労による貧血」だった。
重い足取りで戻った病室には、すでに点滴が用意されていて、大事をとって今晩はここで一泊する手続きをとった、とマネージャーから聞かされた。
腕に繋がる点滴の管が目について、落ち込んでいく気分に拍車をかけた
「じゃあ俺も打ち合わせとか、片づけなきゃなんない仕事あるから戻るけど。大丈夫か?」
「あ、はい。すみませんでした」
「うん、明日また来るから。それまでしっかり寝て、疲れとれよ」
そう言って私の頭に手を乗せて微笑む仕草がまるで父親のようで、幼い子供に戻ったような気分になる。
見送る後ろ姿は、窓から差し込む日射しに照らされて温かい色に染まっていた。
大人ぶってみても、大勢の人に支えられている。
こんなふうに倒れて、みんなに迷惑を掛けて改めて感じる不甲斐なさ。
「一人で立っていられないほど弱くない」
ゆづくんに言った台詞は、自分勝手でひどく傲慢な言葉だったことに気付く。
強がって、ずっと気遣ってくれていた織田くんの優しささえ受け流してた。
まるで自分だけがツライみたいに殻に閉じこもって……。
素直に受け止めることが出来ないでいた自分を恥ずかしいと思った。
もっと強くなりたい。
優しさをくれる人たちに、同じだけの優しさを、「ありがとう」を返せるように。
ゆっくりと体をベッドに横たえて目を閉じれば、傷付いた目をしたゆづくんの表情が浮かんだ。
冷静になってみれば、改めて後悔が押し寄せる。
その優しさに本当の笑顔で応えられなくて……ごめんね。
止めどなく溢れる愛しさ。
この想いが消えていく日をいつまで待てばいいのかな……。
寄せては返す波のように、ただくり返される痛みに耐えて、そうやって迎える未来に在るのは何だろう。
午後のオレンジ色の光が部屋全体を満たす頃、いつの間にか眠ってしまっていた。
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作者名:mirin | 作成日時:2021年3月8日 0時