82◇羽生くん視点 ページ32
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Aの好きな人……誰だよ、それ。
一瞬頭の中が真っ白になった。
だって、恋愛とかそんなのできないって……スケートのことばっかりで無理だって……Aは言ってた。
それ以上に好きな人ができた……?
Aがそれほどまでに想う相手って……。
そのせいで苦しんでるの?
たまらないくらいの胸の痛みが走り抜ける。
次に襲ってきた激しい感情。それには覚えがあった。
体温が上がっていくのがわかるほどの、紛れもない「嫉妬」。
目の前が真っ赤に染まるような感覚。
「ゆづくん?」
呆然としている俺に投げられたノブくんの言葉も遠くに聞こえる。
込み上げるこの感情をやり過ごすことで精一杯だった。
俺なら、Aにあんなつらそうな顔させたりしない。
俺ならって……。
思いがけず浮かんだ考えにハッとした。
同時に聞こえたノブくんの声。
「ゆづくんさ……たまに言ってるじゃん。ゆづくん目当てにクラブ入って近付いてこようとする女うざいって。こっちは真剣にスケートやってるのに……的なこと」
「は? ……なに、急に?」
「それ、Aちゃんに対しても思う?」
「……何の話?」
「……じゃあ言い方変える。ゆづくんはAちゃんのこと…、どう思ってんの?」
それはあまりにストレートで、俺の心を読んだみたいなタイミングで、一瞬言葉を失った。
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作者名:mirin | 作成日時:2021年3月8日 0時