片思い２ (ページ30)

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８０◇羽生くん視点ページ30

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「ねぇゆづくん……。なんかあったー？」

練習を終えて、控え室の角でぼんやり座っていた俺を覗き込んできたのはノブくんだった。
眼差しは心配そうだったけど、わざと軽い口調で問いかける。
そんなさり気ない気遣いはとてもノブくんらしくて……。
いつもなら意地を張って言わなかったかもしれない。
けど、あんなAを目の当たりにした今、ちっぽけなプライドなんてもうどうでもよかった。

「ちょっと外出る？」

「……うん」
　

控え室を出た先の人気のないロビー。
壁にもたれる俺と、ベンチに座っているノブくん。
しばらくの沈黙の後、思い切って口を開いた。

「Aに、なんで嘘つくんだって…嘘ついてまで笑うなって言っちゃって……。
Aも感情的になってたから、なんかケンカみたいになって……」

「うん…そっか……」

「関係ないとか言われるし……つい怒鳴っちゃって……もう最悪……」

ただ黙って俺の話を聞いているノブくんに安心して、ずっとため込んできたものを吐き出す。

「俺ってそんな頼りになんないのかとか、Aにとって俺ってそんなもん？とか……。
Aが昌磨と笑い合ってんのとか見てると、なんかすげーむかついて、ずっとイライラしてて。
自分でもおかしいって思うけど。ただ、笑ってて欲しいだけなのに、うまくいかない……」
　
「うん……」

「Aのこと言えないよね……。俺だって最近どうかしてる……」
　
笑おうとして失敗した。
洩れた言葉は気の抜けた溜め息に紛れて消えていった。

目を閉じて、屈託のない笑顔で笑い合っていた頃を思い出してみる。
そんなに遠くない過去のはずだ。
それでも駆け抜けた時間の流れはとても速くて、ひどく昔のように思えた。
色んな事があって、色んな感情を知った。
嬉しかったり、悲しかったり、苛立ったり……
それでもいつも傍にあった笑顔に安心してた。

　
Aが笑っていられるために、俺には何ができるんだろう。

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