５１◇羽生くん視点 ページ1
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リンクから出て壁にもたれて座り込んでいる俺の前に、あぐらをかいて座り込んだノブくん。
そして、あらたまったように言われた一言。
「昨日、なんかあったろ ？ Aちゃんと」
気付いてるとは思ってたけどさ。やっぱ聞くんだ……。
何となく気まずさから目を逸らした。
「別に……、ちょっと仕事のことで意見ぶつかっただけ」
半分ホントで、半分ウソだった。
「それってAちゃんが具合悪かった原因のこと？」
そんなノブくんの言葉に思わず反らした視線を戻す。
「ノブくん、知ってたの？」
「まぁね。俺情報早いからね！昌磨のことも聞いてたし」
「何それ、どういうこと？」
話が見えない。
昌磨の名前につい苛ついた声が出てしまったけれど、ノブくんに気にした様子は見えない。
「んーこれ、あんま言うのどうかとは思うんだけど……」
そう前置きしてから話し出したノブくんから、昌磨が彼女と別れて相当落ち込んでいたらしいことを聞いた。
だからAがそれにつき合って……
でもいくら付き合いだって、次の日に影響が出るって分かってて酒を飲むなんてAらしくない。
ついポロっと口に出すと
「あれ？Aちゃんお酒飲めないっしょ？ 飲んでないんじゃない？ 昌磨もそんなこと言ってたし」
「でも、具合悪そうだった」
「んー、それはお酒が原因じゃなさそうっていうか……」
「わかってるよ」
そんなこと言われなくてもわかってる。
あの日、体調最悪なのになんとか持たそうと無理してたことも、何度もすまなさそうに俺を見てたことも、わかってた。
なのにカッとなってキツイ言葉をぶつけたのは、俺の理不尽な感情からだった。
その理由にじゃなく、残された噛み跡にむかついた。ただそれだけ。
親しさを主張するように紅く残された痕跡に苛立った。
「ってことで、口きかないとかナシね。今ごたごたしてる場合でもないしさ」
「……わかってる」
俺だって気まずい状態のまま練習やリハーサルをしたいわけじゃない。
だけど、こんなふうにこだわるのはAのらしくない行動の理由を、知ることができないもどかしさからだった。
「あ、Aちゃん帰ってきた。そろそろ練習再開！ 気合い入れていこ！」
立ち上がったノブくんに肩を叩かれて、ゆっくり立ち上がる。
気持ちを切り替えるために目を閉じて深呼吸をした。
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作者名：mirin | 作成日時：2021年3月8日 0時
