拾参 ページ16
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「───姉さん、ただいま」
玄関から、愛しい妹の声が聞こえ、私は洗濯物を放り出して小走りで玄関に向かい、戸を開けた
「Aっ!!」
目の前に立つ彼女に抱きつき、その肩口に鼻を埋める
心配した
すごくすごく心配で仕方なかった
逸巳さんも心配していた
Aがいなくなったら、私はひとりになってしまう
私の、たったひとりの、愛しい妹
「……ごめん、姉さん、心配かけた」
「……ほんと、気が気じゃなかったんだから」
Aをすぐに部屋に上げ、お茶を淹れる
「傷はもう平気なのね」
「うん、蝶屋敷のみなさんが世話してくれて」
その、蝶屋敷、という単語でぴくりと肩が跳ねてしまう
ゆっくりと息を呑んで、膝の上の拳を握る
正面に座るAが、怪訝そうにこちらを見ている
私の出す、ほんの少しの勇気だった
「……あのね、A」
「なに、姉さん」
Aは、私の雰囲気が変わったのを見てか湯呑みを床に置き、正座し直した
「私ね、蝶屋敷で働こうと思うの」
Aが、ゆっくりと目を見開く
「……え?」
「少し前から、カナエさんと連絡をとっててね、
私が医学を嗜んでるって話をしたら、ぜひうちで働いてくれ、って誘ってくださったの」
「…で、でも、わざわざ鬼殺隊に関わる場所で働かなくたって」
……ああ、わかっている
この子は、私を心配してくれているのだ
私が「普通の人生」を歩めるようにと
そのためには、そちら側に踏み込んではならないと
………でもそれは無理な話だ
Aにだけ重責をおわせ、自分はのうのうと生きるなど
それに
紫乃さんがいない今、少なくとも「普通の人生」など、私が手に入れられるはずもない
「……私が、私が蝶屋敷で働きたいの
私は体が弱いし、剣士にはなれないけれど、それでも」
進むしかないのだ
退路はとうに絶たれている
悲しみに足を止める時間すら与えられない私たちは、
ただ、進むしかないのだ
そこに何がなくとも
だからA
あなたが折れてちょうだい
「……わかったよ」
根負けしたように言うAに、私は安堵の笑みを浮かべた
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作者名:ティアー | 作成日時:2019年9月29日 15時