脅威少年と気まぐれ狼さん (ページ41)

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41話ページ41

「ここから逆方向...あれ？」

低い視点と幼い声で俺が子供になってる事に気がついた。Aに似た子供は俺をまじまじと見た。

「狼さんから逃げてきたの？」

「狼さん？」

「そう。黒い狼。」

その特徴は紛れもないAの事だった。
本を閉じると隣に座るように言われた。言う通りに座るとAに似た子供は俺に聞いた。

「狼さん、今どこにいるか知ってる？」

「あっちやけど...」

「そう。ありがとう。」

不安に煽られ俺は聞く。

「まさか、行くんか？」

「ううん。もう行かないよ。もう私、大人だもん。」

「え？」

見た目は子供の姿だった。
でもこの感覚はAと同じ感覚でなんとも言えない。

「独り立ちしなきゃ。ゾム。」

「なんで、名前...」

笑った顔もAそっくり。
仕草も何もかも。

「私達が独り立ちしなきゃ、狼さんはまた来る。」

「どういう意味なん...？」

「私ね、狼さんに取り憑かれてたの。長い間、ずっとね。」

「末永やって...言うてたやん。」

「それはゾムをずっと独り立ちさせないようにするための嘘だよ。私はもうヨボヨボおばあちゃんだもの。」

どういう意味だ？
今の目の前にいるAと狼のAは違うとでも言うのか？

「狼が来る。」

「え？」

「走って。あっちを行けば戻れる。」

「Aは、どうするん。」

「私が行ってもゾムとは生きれないよ。」

理解が追い付かなかった。
つまりこのまま出ることが出来るのは俺だけとでも言うのだろうか。Aだって出れる方法はあるはずだ。

「行こう！」

「でも、私...」

「それでも俺はAのこと、」

「それは狼さんのお呪(まじな)い。私が出会った狼さんもお兄さんだから好きになったの。でも、それは新しく身体に乗り移るだけの魔法でしかないの。」

否定しようにも口が動かなかった。
Aは俺の手を握った。すると体が自然に動いてAを抱えて走り出した。

『待って。待って。』

「聞いちゃダメ。振り返らないで！」

「わかった！」

無我夢中で走り続けた。

『どうして、離れてしまうの？』

最後に聞いた言葉は随分と寂しそうだった。