19話 ページ19
「えっと、ここ…」
「ご丁寧にありがとうございます。」
目の前の1人の子供。茶髪に美しい翡翠の宝石のような瞳を持つ人間の子供。何となく彼女の“気まぐれの理由”を察した。
「ではまずは基礎からやりましょう。何か学びたい事とかありますか？」
「え、あ、じゃあ…魔界について聞きたいねん。」
「…成程。では、教えられるだけ教えましょう。」
だがその前に基礎的知識を身に付けてから。見たところ文字の読み書きや計算は出来るらしい。とは言えど本当に簡単なものだが。余程、処理仕事が忙しいのだろう。
「ここはこの式を使えば簡単に解けますよ。」
「あ、ほんとや…」
彼女は過去に今の番犬である“コネシマ“と”シャオロン“を育てた魔獣である事は違いない。それだけでも功績は高い方だ。人間を魔獣へと進化させたと言う功績は。彼女が現場復帰出来る事だって簡単なぐらい。
「えっと、エーミール…」
「まずは敬語が先でしたね。年上には敬称を付けるんですよ。試しに私を”エーミール先生“と呼んでみて下さい。」
「エーミール先生。」
何故彼女が現場復帰を望まないのか。
私の知識欲は更に高まるばかりだった。
魔獣と言えど悪の獣だ。私欲の為に行動するのが本能の下等生物。彼女は”例外“で運良く知識が高い魔獣に生まれた。何故そんな彼女が番犬としての名高い地位に戻らなかったのか。
これこそ苛立ちを覚える彼女の気まぐれとやらで誤魔化されるのだろう。私の知りたいのはそこではない。魔界よりも下界を選んだ阿保じみた選択をした意思だ。私が知りたいのはそこだけ。
こうしてわざわざこんなへんぴな場所に来たのも知りたいが為の行動に過ぎない。人間と言う生き物にも興味があったし一石二鳥である。
「今日はここまで。初日にしては随分と物覚えが早いですね。」
「そ、そうかな…」
「はい。」
初日はこんなものか。
早く自主的に学習出来るようにしなければ。
「それではAさん、また来ます。」
「じゃーねー」
見送った後、ゾムが口を開いた。
「なぁ、エーミール先生ってどんな悪魔なん？」
「彼は有名な悪魔さ。自分の欲に忠実な男。」
「どう言う意味や…？」
「賢いからこそ、異様な知識欲がある。彼はある意味罪な存在だよ。」
七つの大罪を言ってご覧。
そういえば一つ一つ確かめるように言う。
「強欲って事？」
「正解。」
その知識欲は強欲に値する。
彼の異名は
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作者名：更新不定雑飽子 | 作成日時：2020年8月26日 18時
