第235話《奇跡》 ページ42
「これが勝つ道か？」
冷たい身体を抱いたまま立ち上がる。振り向くと、想定より多くの視線を浴びた。同情や憐憫、哀悼を含めたものが殆どだったが、中には警戒の目を向ける者もいた。
言葉に詰まるロジャースと、何か言いたげなソーの向こうに、じっと此方の様子を伺っている男の姿が見える。
「お前に言ってるんだッ！」
静寂とした一帯に、怒声が響く。男は顔色一つ変えず、群衆を掻き分けて僕に近付いた。
「誰も犠牲にならないとは言っていない。だが確かに我々はサノスに勝利し、失った半数の人類を取り戻した」
平然と言い退ける目の前の男に掴みかかろうとした瞬間、腕の中の重みに遮られた。それがまるで、彼女に憤怒を窘められているように思えて。
あまりのやるせなさに歯をギリ、と噛み締める。
「トニー……」
「お前のせいではない。気をしっかりと持て」
かけられる言葉が水のようにすり抜けていく。何を言われようが、何を気遣われようが、最早全てどうでも良かった。
自由。
そんな無責任な概念があるから、サノスのような思想が生まれるのだ。何故もっと早く気付かなかったのか。ああ、今すぐやらねばならぬ事が山積みだ。もっと強固な防衛が、もっと完璧な秩序がこの世界には必要なのだ。
「(そうだろう？A)」
君に誓う。僕は二度と侵略されぬ星を作り上げる。地上の全てを庇護下に置いて、誰も彼も大切なものを奪われず、永遠に幸せに暮らせるような、そんな理想郷を必ず実現させてみせる。
幸い失うものはもうない。決意と共に腕の中の身体を今一度抱き締め、固く閉ざされた氷のような唇に、そっと口付けを落とした。
「______君を愛してる。この星の誰よりも」
今更どれほど愛を囁けど、あの温もりも、あの笑顔も、あの安らぎも、もう二度と帰って来ない。二度と触れられない。
こんな事になるのだったら、もっと早く君の気持ちに応えるべきだった。
＊
《ボス！》《Sir！》
暫く何も見たくなかったが、あまりにも必死な声色に反応してしまう。ゆっくりと俯いていた顔を上げ、瞑っていた瞼を開いた。
「な、」
目前に広がる光景に驚愕し、言葉を失う。
《心肺機能の蘇生を確認。これは……》
ああ。
これは。
奇跡、だ。
陳腐な言葉だが、そうとしか言い表せない。
唖然としている間にも、彼女の爛れた皮膚は次々と修復されていき、無数の裂傷もあっという間に消えていく。真っ白な肌も、ついには僅かな血色が宿る程となっていた。
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vanny(プロフ) - Unknownさん» トニー推しの身としては、解釈が合うと言って頂けて一安心です笑これからも頑張って創作に励みますね！素敵なコメントありがとうございました。 (8月30日 12時) (
レス) id: e2f2cf9807 (このIDを非表示/違反報告)
vanny(プロフ) - Unknownさん» このような長い物語を呼んで頂き、本当にありがとうございます。絶対完結させるぞ…！と意気込んで必死に書いて来た日々が報われたような気分です😢私の作品がUnknownさんのお目に止まり、少しでも要望を叶える事が出来ていたのであれば僥倖です。 (8月30日 12時) (レス) id: e2f2cf9807 (このIDを非表示/違反報告)
Unknown(プロフ) - そして、3年という長い年月をかけてまで完結してくれたことと、自分の中でのトニースタークの解釈と本当に一致していたのが嬉しいです笑これからも、素晴らしい作品を生み出してください。 (8月29日 0時) (レス) id: 15fcef644d (このIDを非表示/違反報告)
Unknown(プロフ) - 本当に素晴らしい作品で、一気に読んでしまいました。私もトニースタークの哀しい人生に何か救いがあればいいな、と思っていました。このような本当に素晴らしい作品に出会えた自分の運、そして、作ってくださったことに心から感謝したいです。 (8月29日 0時) (レス) @page49 id: 15fcef644d (このIDを非表示/違反報告)
vanny(プロフ) - stupidさん» お気になさらず〜！日常系ですね！分かりました👍ありがとうございます！ (2023年2月11日 12時) (レス) id: e2f2cf9807 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：vanny | 作成日時：2022年3月16日 13時
