episode50 ページ3
霧島side
Aの今にも泣いてしまいそうな顔を見て思わず手を伸ばした。
ﾊﾟｼｯ！
A「ッ！、触らないで！」
と言い駆けて店から出ていってしまう。その背中に待てっ、と呼びかけるも既に外に出てしまったAに声は届かない。
うっすらとした喫茶屋にポツンと取り残されてしまった。
探しに行こうにもここ以外にあてはなく、無理に畳み掛けるのも無謀だと思い唯一の手掛かりがパァになってしまった。
コトン
どうぞ、という声と共にひとつのカクテルが出てくる。
霧島「俺にですか？」
マスター「えぇ、少し私の話を聞いていきませんか？」
鶴喰さんのことを、と付け足されハッとした俺はハイスツールに座った。
マスター「さて、何から話しましょうか」
じっとカクテルの上に乗ったミントを見つめる。
マスター「彼女は、そうですね成年する前からここに通ってました。ここの古本の香りとジャズがたまらないと。週に一回は必ず来るほどの常連でした。私も彼女と話すことも多く色々な話を聞かせて頂きました。あなたが透さんですよね？」
俺の名前を知っている？
霧島「俺の事を話してたんですか？」
マスター「えぇ、それも楽しそうに。しかし、先週彼女は1回も飲みに来ずに月曜を迎えました。1回も来なかった。そう思ったら月曜からはまいにちうちに来るようになって私は聞いたんです。何かあったのか？と。」
毎日ここに？俺はなんでもっと早く思い出さなかったんだ。何回か連れてきてもらったことがあったというのに。
マスター「彼女はどうやら家族関係に悩まされているようでして、特にあなた。透さんの隣にいる資格なんて私には無い、私は疫病神なんだ、と。力があっても心が空っぽで何も感じない。ここだけが私を無にしてくれる。そう私は聞きました。」
聞くだけでいいと言われたので特に助言という助言は出来ませんでしたが。と付け足す
霧島「......」
隣にいる資格がない？何を言っているんだ。俺はAなしじゃ笑えねぇのに
霧島「カクテルありがとうございます、」
マスター「お代は要りませんよ、是非いってあげてください」
俺は地下喫茶の階段を駆け上がり外に出た。
もうすぐ雨が降りそうだ、早めに見つけねぇと
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作者名：野生の黒豹 | 作成日時：2022年9月16日 7時
