第１９話 ページ21
第１９話
「それ以上、何もするつもりない」
私がそう言うと焦凍は何も言ってこなくなった。長居するのも気まづいから「じゃあ、ちゃんと渡したから…」といって部屋を出ていこうと焦凍の横を通り過ぎる。
が、焦凍に「お前は…」と話しかけられ足が止まった。あまり冷たくない、普通の声。
「お前は、誰かにやらねぇのか」
「え？あ…うん……相手いないし」
「……そうか」
それだけ言うと焦凍は部屋の中へ入っていった。何だったんだろう、そんな事を聞かれたのは初めてだから少し戸惑いながら私は自分の部屋に戻る。
誰かにあげる、か。
考えた事もなかったけど今は義理だの友チョコだのと、別に好きな相手じゃなくてもあげたりするんだよね。だったら私にもあげる相手くらい1人や２人…
そういえば私、友達もいないんだった。
「………はぁ」
自分で考えといて虚しくなる。
私って本当に人脈ないんだなぁ。ちゃんと考えればチョコをあげられるような相手くらい居ると思ったのに。
「………いや、待てよ」
チョコって普段の感謝とか、そういうのを伝える為に渡す人だっているよね。じゃあ私にも出来るじゃないか。大丈夫、私だってそれくらいの相手はいる。
だとしたら渡すのは…
「まだ店空いてるよね」
あんまり遅くならなければ冬美姉さんに心配かけることもないし、ちゃちゃっと買ってこよう。そう思い財布を持って部屋を出る。
私がいそいそと廊下を歩いていたら、また焦凍とばったり出くわしてしまった。焦凍はトレーニング用の服に着替えていて、これからするつもりだったんだろう。
毎日欠かさず帰ってすぐにトレーニングしてるから、細身なのにしっかりとした筋肉がついてる。
「こんな時間から出かけるのか？」
「あ、うん…チョコ買いに行こうと思って」
私がそう言うと焦凍が少しだけ目を見開く。
「……誰に渡すんだ」
「え、と………お父さんに」
考えた末に出た唯一の人物が父親だなんて、年頃の女の子としてどうかとは思うけど。でも父親にチョコを渡すなんて珍しくもないよね。
感謝の気持ちとして渡してる子っていると思う。
「事務所に送ろうかなぁと思って…」と言いかけた私に焦凍が手を伸ばしてきて、いきなり財布を奪われた。眉間にシワを寄せる焦凍が冷たい目で私を睨んでくる。
「ちょ、返して…！」
「まだクソ親父のこと諦めてねぇのか」
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1390人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
冬桜 - 読んでて自分まで胸がｷﾞｭｯてなったりしてすごく面白かった？です！！ (2021年8月6日 23時) (
レス) id: 4ef8003614 (このIDを非表示/違反報告)
黒目。(プロフ) - 小説も絵もめっちゃ好きです！！ (2020年4月17日 1時) (レス) id: 5a29d39680 (このIDを非表示/違反報告)
ひまり(プロフ) - ごめんなさい！随分前の作品みたいですけどスッゴく大好きになりました！このまま読み進めようと思います！挿し絵も大好きです！ (2019年8月15日 18時) (レス) id: a4cdcf90f4 (このIDを非表示/違反報告)
瑠斗 - とどろっちゃん！！！！好きだぁ！ (2018年11月11日 22時) (レス) id: 223f7ad38f (このIDを非表示/違反報告)
いう - 頑張ってください。 (2018年11月11日 22時) (レス) id: 170f7a55c4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：NAOKI
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/naoki-/
作成日時：2018年5月14日 17時
