第３７話 ページ40
第３７話
「ただいま…」
「焦凍さん、おかえりなさい」
少し帰りが遅かった焦凍さんにそう言うと、焦凍さんは「悪ぃな、すぐ飯作るから」と言って荷物を適当に置く。
だが、荷物を置こうと前屈みになった焦凍さんは「痛っ…」と小さく呟き腹部を手で押さえる。
「……焦凍さん？」
「いや、何でもねぇ」
そう言って誤魔化しキッチンに向かう焦凍さんに何故かモヤモヤしてしまい、私はそっと焦凍さんを追いかける。
バレないように恐る恐るキッチンを覗くと、焦凍さんは何かを確かめるように服を少し捲り上げ腹部を露わにした。その血の滲んだ、包帯を…。
「えっ…」
「…！」
思わず声が出てしまった私に気が付き焦凍さんがバッと振り返る。その顔は『しまった』とでも言わんばかりの表情で、恐らく私には隠しておきたかったのだろう。
きっとまた…私に心配かけまいと。
でも、知ってしまった。知ってしまったからには心配せずにはいられない。だってあんなに血が滲む程なんて…きっと深手を負ったんだ。
「あの、焦凍さん…その傷」
「ちょっと仕事でな、大丈夫だ。それで今日は何か食いたいもんとかあるか？」
「っ……」
また、話を逸らされた。
「その前に先に荷物部屋に持っていかねぇとな」と言いながら明らさまにこの話題から逃げ、荷物を持って自分の部屋に向かう焦凍さん。
なんでこんなにモヤモヤするんだろう。
何となく焦凍さんを追いかけ、焦凍さんの部屋に入る。電気もつけてない暗い部屋で焦凍さんは私を見て「A…？」と首を傾げた。
「あの、怪我してるなら今日は無理しなくても大丈夫です。ご飯なら…私が作りますから」
「心配ねぇって言っただろ、こんなのお前は気にしなくていいから…リビングに戻っとけ」
ああ、ダメだ…モヤモヤする。
焦凍さんの言う事には従う。心配するなと言われればしない、ずっとそう思っていたのに。
「…………焦凍さんは、ズルい人です」
「A…？」
「っ、どうして…」
目尻が熱くなり泣きそうになってしまい、私は焦凍さんに近寄り腹部にそっと触れてみた。すると焦凍さんが「っ…」と少し顔を歪める。
ああ、ほら…痛いんじゃないか。
「焦凍さんは私の事をいつも心配してくれる。でも、私にはあなたを心配させてくれない…」
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1525人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なんだよたけしビビってんのか(プロフ) - 全作品絵が本当に美しくて初めて絵で感動しました。また伏線が所々あってその上感動するなんて天才... (2021年5月23日 2時) (
レス) id: dfdea40777 (このIDを非表示/違反報告)
あすか(プロフ) - タイトルの絵もなんかアニメ「ＰＳＹＣＨＯ-PATH」に絵柄が似てて感動。しかも、物語にもなんか感動した。 (2019年9月14日 0時) (レス) id: 2712192e09 (このIDを非表示/違反報告)
るみ - 終わり方最高です……！泣いた (2019年4月13日 21時) (レス) id: 4ab93c79dc (このIDを非表示/違反報告)
ﾌｧｱｱｱｱ(プロフ) - 絵がちょくちょく入ってくることによりなんか映画のワンシーンでも見ている気になりますね (2018年9月8日 15時) (レス) id: 01f6b2b9ab (このIDを非表示/違反報告)
トミ - すごく吸い込まれるようなお話で…次を読むのが楽しいです。 (2018年6月30日 23時) (レス) id: 3237980cf6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：NAOKI
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/naoki-/
作成日時：2018年5月29日 17時
