第２６話 ページ29
第２６話
「やあ斎藤Aさん。来てくれて嬉しいよ！答えは決まったのかい？」
「……はい」
約束の週末夜８時、私は焦凍さんに「散歩してきます…」という嘘をついて家を出てきた。
夜の散歩なんて危ないから止められるかもしれないと思ったけど、焦凍さんは少し眉間にシワを寄せて「…ああ」と短い返事をしただけだった。
「さあ、僕の元へおいで」
「……貴方の勧誘は、とても嬉しかったです。この先、天地がひっくり返っても有り得ないような光栄な事なんだと思います」
私の答えは既に決まっている。
「でも、そちらへは行けません」
ハッキリとそう言うと彼はニコニコしていた顔を歪め眉間にシワを寄せる。「なぜ…！？」と声を張り上げる彼に申し訳ないと思いながら、私はまた口を開いた。
この先、一生ないであろう勧誘だ。でも私は彼の元へ行くわけにはいかない。
「本当に、すみません…」
「あの男には君を必要な理由がない、いつ捨てられるかも分からないんだぞ？そんな偽りの家族を選ぶなんて馬鹿げてる！あんな男の為に無理をする必要なんかない…君が辛い思いをする必要はないんだ」
「辛いって…何がですか？焦凍さんの事だとしたら、あなたは勘違いしてる。私は焦凍さんと居て辛いと思ったことは……一度もありません」
あの人はいつも私に優しい言葉をくれる。暖かい手で撫でてくれる。特別な時間を…私にくれた。
「騙されているんだ、君は！！」
「だとしても構いません。いつ捨てられてもいいんです、いつ見限られてもいいんです。そんな事…今更気にしません。だってあの人は誰よりも先に、私に手を差し伸べてくれた」
だから、と続ける私の髪を夜風が揺らす。
「……今の私の家族は、あの人です」
一年と経たず捨てられるかもしれない。だったらそれでもいい。焦凍さんは誰よりも先に私を救おうしてくれた。だから私は…彼が手放すまで、彼の元に居たい。
ハッキリとそう言うと白衣の男性は顔を歪め「ふざけるな…！」と叫び私の腕を掴む。
「いいから僕の元へ来い！君がいなきゃ、僕の計画は成り立たないんだ！！」
「痛っ……は、離して」
「君の我儘で僕の計画をおじゃんにする気か！？」
無理やり腕を引っ張られ振り解こうとしたその時、私と彼の間に誰かが割り込んできて腕が開放された。
「え…？」と顔を上げると、見知った背中がある。
「それ以上、こいつに触るな」
「………焦凍さん？」
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1525人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なんだよたけしビビってんのか(プロフ) - 全作品絵が本当に美しくて初めて絵で感動しました。また伏線が所々あってその上感動するなんて天才... (2021年5月23日 2時) (
レス) id: dfdea40777 (このIDを非表示/違反報告)
あすか(プロフ) - タイトルの絵もなんかアニメ「ＰＳＹＣＨＯ-PATH」に絵柄が似てて感動。しかも、物語にもなんか感動した。 (2019年9月14日 0時) (レス) id: 2712192e09 (このIDを非表示/違反報告)
るみ - 終わり方最高です……！泣いた (2019年4月13日 21時) (レス) id: 4ab93c79dc (このIDを非表示/違反報告)
ﾌｧｱｱｱｱ(プロフ) - 絵がちょくちょく入ってくることによりなんか映画のワンシーンでも見ている気になりますね (2018年9月8日 15時) (レス) id: 01f6b2b9ab (このIDを非表示/違反報告)
トミ - すごく吸い込まれるようなお話で…次を読むのが楽しいです。 (2018年6月30日 23時) (レス) id: 3237980cf6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：NAOKI
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/naoki-/
作成日時：2018年5月29日 17時
