第８７話 ページ7
第８７話
「…今日は、よろしくお願いします」
そう言って私が頭を下げると40代の優しそうな夫婦が「宜しくね〜」と私に笑顔を向けた。この人達が経営しているパン屋、今日はここでお世話になる。
とても温厚そうな夫婦と緑谷さんが「頑張ろうね、Aちゃん」と笑った。とても暖かい雰囲気の人達だ。不安や緊張があった分、余計に落ち着く。
さっそく開店前の掃除から始めることになり、私と緑谷さんはホウキを持って店前に出た。相変わらず肌がヒリヒリするような寒さに、私は「はあっ」と両手に息を吐く。
「ううっ、寒いね〜」
「外の掃除なら私がやっておくので、緑谷さんは中にいてください。無理に私に合わせなくても…」
「僕がやりたいと思ってしてる事だから、気にしなくて大丈夫だよ」
そう言って緑谷さんはまた笑った。
折角の休日なのに私に付き合ってくれて、しかも緑谷さんはバイトではなくボランティア。お金は受け取らないそうだ。
それでは流石に申し訳ないとパン屋の夫婦も言ったのだが、緑谷さんは『好きでお手伝いするだけですから』とまるで趣味でもするかのように言った。実際、彼にとって人の役に立つということ自体が趣味みたいなものなんだろう。
今だって、ボランティアなら無理せず暖かい店内でゆっくりしていてもいいのに。本当この人は凄いというか…暖かい人だな。
私に合わせてくれてるんだろうから。
「プレゼント何を買うか決めてるの？」
「…いえ、何を買えばいいのか分からなくて」
「Aちゃんがあげるなら轟くんは何でも喜ぶと思うけどね」
「そう、ですかね…」
ホウキで店前を掃除しながら、緑谷さんとそんな話をする。焦凍さんって蕎麦以外で何が好きとか、何か欲しい物があるとかがないそうだ。
だから何をあげればいいのかイマイチ分からない。
「…そういえば最近お仕事どうですか？」
「ここ最近は少しだけ忙しいかな。もしかしたら轟くんもただ疲れてて元気がないだけなのかも」
「やっぱりヒーローってお仕事は大変なんですね」
いつだったか、焦凍さんが言ってくれた。
将来に希望がない私に、いつか一緒に働かないかと。気を使って誘ってくれたのかもしれないけど、あれは本当に嬉しかった。
だから私もちゃんと勉強して、色んなことを出来るようになりたい。人付き合いとかそういうのも。
そしていつか
ちゃんと焦凍さんの役に立ちたい。
「……頑張らなきゃ」
．
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m(プロフ) - 本当に素晴らしく感動して涙が出ました。素敵な作品、素敵なイラストありがとうございました。 (2021年8月30日 17時) (
レス) id: 2635dac9cc (このIDを非表示/違反報告)
Yuu(プロフ) - 素晴らしい作品をありがとうございます。ここ三年間くらい感動することは久しく無かったのですが、久しぶりに感動しました。ありがとうございます。 (2021年6月22日 21時) (レス) id: 375d648123 (このIDを非表示/違反報告)
名無し8446号(プロフ) - ガチで泣きました。 (2021年5月28日 14時) (レス) id: 300e87c18e (このIDを非表示/違反報告)
おーしゃんびゅー(プロフ) - (続き)作品がいいオチな分、考察が止まらず恐ろしいことを考えてしまいました(笑)長々と失礼しました。 (2020年11月22日 20時) (レス) id: 8df8463d93 (このIDを非表示/違反報告)
おーしゃんびゅー(プロフ) - (続き)夢主の個性によって轟くんの欲が増幅→夢主と逃げる→夢主が死ぬと考えると、個性によってサイコパスにならなければそのまま病院にいて、夢主は死ななかったのでは？と考えました。そうなると夢主の個性＝不幸にするということになり、振り出しに戻ります。 (2020年11月22日 20時) (レス) id: 8df8463d93 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：NAOKI
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/naoki-/
作成日時：2018年6月17日 10時
