第１１９話 ページ39
第１１９話
２人の乱れる息が夜空に消えていく。焦凍さんに手を引かれ走る私の頭は酷くクリアだ。
どこからかパトカーのサイレンが聞こえると、焦凍さんは舌打ちをして裏路地に入る。そして私をギュッと抱きしめ「……大丈夫だからな」とまるで自分に言い聞かせる様に言った。
……これはきっと、焦凍さんの独断だ。
彼は逃げると言っていた…何から？
恐らく、全てからだ。
「焦凍さん…」
「ぜってぇ離すもんか、アイツらには渡さねぇ。二人で静かな所に行こう……誰の手も届かねぇ所に」
私達は逃亡者。
ヒーローや警察の目を欺き逃げ続けるなんて出来るのだろうか。いいや、それが問題なんじゃない。
焦凍さんは、全てを捨てて私を選んだ。
……だけどその判断は、
間違っていないだろうか。
「…緑谷さんや爆豪さんも探してますかね」
「だろうな、警察はまだしもアイツらから逃げるのは難しいかもしれねぇ。それでも…俺が何とかする」
だから…と焦凍さんはより一層強く抱き締める。
「……ずっと、一緒にいよう」
その言葉に私の胸が押し潰されそうになった。とても嬉しくて、暖かくて、幸せな言葉。
でも、なぜかとても儚く感じる。
「焦凍さ……んっ」
彼の胸元に埋めていた顔を上げた途端、私の口は焦凍さんによって塞がれた。まだ肌寒い夜空の下で僅かな暖かみを持った唇と唇が重なる。
鳴り止まないパトカーのサイレンと、夜の街を照らす月明かりとネオンの灯。それらが届きにくい裏路地で…私達は互いの体温だけが拠り所だった。
これからに対する不安も、離れたくないという愛情も、私達には居場所がないという哀しみも。
それらを共感し、ぶつけられるのはお互いだけ。
初めてのキスは…とても暖かくて
切ない味がした。
ゆっくりと唇を離した焦凍さんが、私の頬を親指で撫で口を開く。
「……愛してる」
口から零れるように出た言葉は、脆く儚く、そして哀しみにも似た愛情。
「っ……私は」
グウゥ…とお腹が鳴ってしまい焦凍さんは「今のうちに何か買っとくか。ぜってぇここから動くなよ、直ぐ戻るからな」と私の頭を撫で近くのコンビニへ向かう。
私はへなへなとその場に座り込み顔を歪めた。
それでも私は、焦凍さんに…
「こんばんは、お届け物ですよ」
「っ！！？」
声を掛けられバッと顔を上げると
怪しげな男がニヤリと笑いながら
黒い手紙を差し出してきた。
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m(プロフ) - 本当に素晴らしく感動して涙が出ました。素敵な作品、素敵なイラストありがとうございました。 (2021年8月30日 17時) (
レス) id: 2635dac9cc (このIDを非表示/違反報告)
Yuu(プロフ) - 素晴らしい作品をありがとうございます。ここ三年間くらい感動することは久しく無かったのですが、久しぶりに感動しました。ありがとうございます。 (2021年6月22日 21時) (レス) id: 375d648123 (このIDを非表示/違反報告)
名無し8446号(プロフ) - ガチで泣きました。 (2021年5月28日 14時) (レス) id: 300e87c18e (このIDを非表示/違反報告)
おーしゃんびゅー(プロフ) - (続き)作品がいいオチな分、考察が止まらず恐ろしいことを考えてしまいました(笑)長々と失礼しました。 (2020年11月22日 20時) (レス) id: 8df8463d93 (このIDを非表示/違反報告)
おーしゃんびゅー(プロフ) - (続き)夢主の個性によって轟くんの欲が増幅→夢主と逃げる→夢主が死ぬと考えると、個性によってサイコパスにならなければそのまま病院にいて、夢主は死ななかったのでは？と考えました。そうなると夢主の個性＝不幸にするということになり、振り出しに戻ります。 (2020年11月22日 20時) (レス) id: 8df8463d93 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：NAOKI
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/naoki-/
作成日時：2018年6月17日 10時
