lua e sol (崖っぷちホテル！) (ページ34)

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「おいしいですね！」
「……はい。」
「あれ、どうしました？食欲、ないんですか？朝はしっかり食べないと、動けなくなっちゃいますよ？」
「コイツは元々朝はコーヒーしか飲まなかったの。それが、パンとヨーグルト食べるようになったんだから成長したの。ちなみにこれ以上食わせると眠い、とか言って余計に仕事しなくなるから。」
「へぇ、そうなんですか。江口さん、詳しいですね。」
「そ、れはまぁ、長い付き合いだから。」

翌朝、目が覚めた名前はとりあえず身だしなみを整えて、躊躇いながら宇海の部屋に電話をかけた。もうそんな時間ですか、なんて言うので早く起こしすぎたかとも思ったが、名前が起きた時間に起こせと言ったのは宇海なので、自分は間違っていないとそこは開き直っておく。
出勤する用意を整え、一旦事務室に荷物を置いて。いつも通り厨房に行けば面倒臭そうな顔をした江口に「宇海さんがホールで待ってる」と伝えられる。仕方なくホールに出てくると、宇海は嬉しそうに名前を自分の席の向かいに座らせ、食事を始めたのだ。
もし、他の客がいたのならそれを理由にホールで食事をすることを断ろうとも思ったが、残念ながらホールに居たのは宇海のみで、名前は仕方なく宇海の向かいに座り、少しだけ焼き色を付けた食パンにいちごジャムを乗せて進まない食事を懸命に食べ進めた。

「名前さんはいつからここで働いていらっしゃるんですか？」
「15。まあ最初は“お手伝い”って名前だったけど、掃除もベッドメイクも配膳も事務作業も何でもしてたよな。」
「どうして江口さんが答えるんですか？」
「合ってんだからいいだろ。コイツ、低血圧だから朝はあんま喋んねーし。」

2人の席の近くのイスに腰かけた江口は何をするでもなく2人の会話……というよりも、宇海の質問を聞いて、名前が答える前にすべて答えてしまう。低血圧なのは事実だが、別に質問に答えられないほどではない。しかしいちいち反論するのも面倒で、名前は黙って食事を進めることだけを考えていた。

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