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Aはぽかんとした顔で、しばらく俺を見つめた。
「…少しもがっかりしないって言ったら、嘘になる」
「そ、うだよな」
わかっていたはずの答えに、想像してたよりもショックを受けた。
世界一に連れてくって、サッカーを諦めないって俺が言ったのに。
また一方的に約束を破られて、がっかりしないはずがない。
私を見ろと言うように彼女は手を握る力を強めた。
「どんな理由でも、もう一度サッカーをしてくれることは本当に嬉しい」
思ってもみなかった言葉にたじろいでしまった。
にっこりと笑うAが眩しくて目を逸らす。
彼女は弱気な俺を叱るように、だけど優しい声で言う。
「できるならもう一度、豹馬には夢を追いかけてほしい。
…私ね、豹馬が私を救ってくれたように、本当は私が豹馬を救いたかった。
でも、今の私には無理だってわかったんだ」
「…どういうこと?」
Aが、何を伝えたいのかわからなかった。
彼女は肩をすくめて答える。
「追いかける夢がない私に、豹馬が夢を追いかけるきっかけは与えられないってこと。
豹馬が世界一になる瞬間を見るって夢は、豹馬ありきでしょ?
私はまだ、自分の足で追いかけたい夢がない。
同じように選手生命に関わる怪我して、諦めた私が何を言ったって、きっと豹馬には響かなかった。
だからせめて隣にいて、チャンスが来たら背中を押してやろうって思ってた」
思い返せばそうだった。
あの頃のAはサッカーのことはおろか、怪我のことにも一切触れてこなかった。
「もし豹馬を救える人がいるとしたら…あの頃の豹馬みたいに、本気で世界一を目指す人だよ。
その人の熱がきっと、もう一度夢を見たくさせるから」
今の俺にはAの言葉の意味を全部理解することはできなかったけど、
Aは恐らく、自分と同じ轍を踏んでほしくないのだ。
爆弾を抱えた者同士、その先輩として。
後悔をするな、と。
「…ありがとう」
東京に行っても、前と同じようにプレーはできないだろう。
それでも、逃げたら後悔する。
諦めるためにも、前に進まないといけない。
Aは手をそっと離すと、頬を伝う涙を拭ってくれた。
「大丈夫、"千切豹馬"は死んでないよ」
まだ怖いけど、もう一度、本気でサッカーがやってみたい。
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にいな(プロフ) - さくらさん» ありがとうございます!!何卒最後までお付き合い下さい〜!!♡♡ (4月12日 2時) (レス) id: f69c63ae39 (このIDを非表示/違反報告)
さくら - すごく面白かったです!頑張ってください!サイコー! (4月8日 20時) (レス) @page1 id: 2b4aba0b1a (このIDを非表示/違反報告)
にいな(プロフ) - 由衣さん» 嬉しいお言葉ありがとうございます🥰これからも頑張れます👊🏻 (2023年4月11日 20時) (レス) id: f69c63ae39 (このIDを非表示/違反報告)
由衣 - この作品大好きであります…‼︎尊い…これからも更新楽しみにしています! (2023年4月10日 16時) (レス) id: ddafeb5c63 (このIDを非表示/違反報告)
にいな(プロフ) - うなぎポテトさん» お気遣いありがとうございます🙌🏻これからも頑張ります‼️ (2023年3月30日 20時) (レス) id: f69c63ae39 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:にいな | 作成日時:2023年2月2日 18時