その天才、恋愛初心者につき。【凪誠士郎】

42 ページ42

.
私の向かいに座っていただきます、と両手を合わせる誠士郎君。


｢お口に合うといいんだけど｣


料理はそれなりにしてるし、得意な方ではある。


それでも誰かに食べてもらうこの瞬間は、いつになってもドキドキする。


｢…おいしい｣


彼は効果音がつきそうなくらい表情をぱあっと明るくさせた。


｢よかった｣


いつも通りゆったりとした動作ではあるけど、もぐもぐと口を動かし続ける彼を愛おしく思った。


｢久しぶりに誰かが作ってくれたご飯食べた｣


｢1人暮らしだもんね。私もいつも自分だけだから、美味しいって言われると嬉しい｣


それに咀嚼を面倒だと言う彼が、こんなに美味しそうに私の作ったご飯を食べてくれてる。


それが何より嬉しかったりする。


｢ごちそうさまでした｣


｢お粗末さまでした｣


あっという間にご飯を食べ終わって食器をシンクに持っていく。


｢俺が洗うよ｣


｢大丈夫だよ、後で洗うから｣


でも、と申し訳なさそうに口をもごもごさせる誠士郎君。


そんなことより、今は誠士郎君との時間を過ごしたいなんて口が裂けても言えない。


｢一緒にテレビゲームしようよ。うち、ソフトいっぱいあるんだ｣


ゲーム、という単語を聞いてわかりやすく目をキラキラさせる誠士郎君。


やっぱり犬みたい、という言葉はぎりぎり飲み込んだ。


そういえば、ゲームセンターでも似たようなやりとりした気がするな。


｢あ、でもまだ帰らなくて大丈夫？｣


ちらっと時計を見ると、針は8時を指している。


｢Aといたいから大丈夫｣


ちょっと食い気味に答える誠士郎君。


同じ気持ちでいてくれたことが嬉しかったのは、私だけの秘密。

43→←41

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す