審神者はじめました。【男主】 (ページ14)

今日:13 hit、昨日:2 hit、合計:15,594 hit

歪み　骨喰藤四郎side ページ14

歴史修正主義者。
それは俺たち、刀の付喪神である刀剣男子にとって……そしてこの世を守る者達にとっての敵。
彼らは一様に奇怪な姿で現れる。

骨を剥き出しにした者、髪を振り乱す者、瞳を怪しく光らせる者、歪な笑いを浮かべる者。

慣れというのは恐ろしい。
初見では恐ろしいと感じていたそれらを、こうして幾分の躊躇いもなく斬っていくのだから。

(不思議だ)

周りの仲間たちが自身を振るい、敵を容赦なく斬り捨てる。
それは刀剣男子として顕現してから、幾度となく目にしてきた光景。
だが、やけに今日は一つ一つの感覚が冴えている。

敵を斬った時感じる刀の微かな抵抗感。
生暖かい飛沫が飛び、身を、地面を染める嫌悪感。

そして。
戦場の空気に、死の匂いに高揚してしまう自分たち。

記憶がないといえど、本能まではなくならなかったらしいことに気づいたのはいつだったか。

(皮肉なものだ)

忘れてしまうのならば、いっそ自身のことも何もかも忘れてしまえればよかった。
そうしたら、こんなにも醜い自身の本性を、過去の自分の行いのせいにできたはずなのに。

ふと、新たな主の顔を思い出す。
今まで出会った人の子と同じであって、同じでない彼。
言葉を交わした一瞬だけ、見えた空虚な瞳が…
俺と通じる何かを持っている気がして。

それが何なのかはわからない。
だが、それがもし俺の手でなんとかすることのできるモノならば。

(やらない手はない、だろう)

手に入れられるものは限りがある。
零れ落ちた何かは、決して手の内に戻ることなどないのだ。

それは記憶を失った自身だからこそわかること。

「ウォオオオオオオ！！」
「…隙だ」
「グフッ……ウォ、ォ」

突如、目の前に敵が現れる。
自身に迫る危機を最小限の動きで避け、腹部に一閃を放つ。
思いの外、派手に入ってしまったそこからは大きな赤い花が生まれる。

前の方で加州清光が何か言ってるから、きっとこれは彼が取りこぼした敵なのだろう。
まったく、とため息を一つ溢し、刀を一振りし、ぴ、と散った赤に顔を顰めつつ。

戦はまだ終わらない。

上がってしまいそうになる口角を抑え、
駆けだしそうになる足を制し、
努めて冷静に……斬る。

刀剣としての本能と、抗えない自身の弱さと、失った欠片。
それと似通った部分を持つ……同じく歪な主。

まるで出会うべくして出会ったとでもいうかのような考えに嘲笑を浮かべるしかなかった。
それは果たして……どちらに対してだったのだろうか。